彼の残したものの整理をかってでた。
他にやらねばならぬことがあるだろうと言われたが、譲れなかった。
怪我した体ももう痛くはなかった。
それより痛い場所があるように思えたが、それがどこかはわからなかった。
泣きはらした瞳が多分腫れているだろうが、誰も、何も言わないでくれた。
結果、今彼は戦場ではなく、引き払われようとしている陣の狭い天蓋の中にいる。
服をたたんでいる。自分のものより長さが短く、横幅の広い服を。もう、着る人はいなくなった服だ。
冷たく冷え切っているその布は、いつかは持ち主の体温で暖かかったことを覚えている。
彼の匂い。太陽と青い草原の匂いにも似た。
この服を着ているところを覚えている。買った時に、自分も一緒にいた。
もう彼がこの服を着ることはないのだと思うと、涙が出た。
小さい箱に、全ての服をつめ終わった。外はまだ、明るい。
次に、無造作に置かれていた武器の整理を始めた。
彼が愛用していたのは棍。それと弓。だから、たくさんの矢が見つかった。
まだ使われていない新品のその矢束は、矢尻の先がきれいに磨かれていて、いつでも使えるようになっていた。
もう彼がこの矢を使うことはないのだと思うと、涙が出た。
整理した服の箱、武器の箱。その他の、生活の品。
合わせたら、たった3箱しかなかった。彼が最後に残した、あまりにも少なすぎる品。
その中からこっそり、一本だけ帯紐を失敬した。
自分の腰に巻いてみたらあまりにもその帯紐が長すぎて、少し笑った。
しかしもう彼はいないのだと思うと、涙が出た。
今日は晴天。雲の流れから見て、明日もきっと快晴。
たった一人の人間がいなくなったって、世界は変わらず回り続ける。
風の匂いも太陽の色も、4つの季節も変わらず巡って行く。
明日もきっと変わらない世界で、数年も経てば自分も彼を思い出し泣くことが少なくなるだろう。
その日を思うと涙が出た。時の流れには、逆らえないとしても。
空を見上げた。
風が、泣きはらした瞳に冷たく吹いていた。
そこはまだ、戦場だった。
涙を、ぬぐわなければいけなかった。
長すぎる帯を巻いたまま、私はまた、武器を取る。
私はまだ、あなたが去った戦場に立つ。