間に合わなかった、と思ったときにはもう全てが終わっていた。
たくさんの青い鎧の死体たちの中に、立っていたのは一人だけ。
倒れていたのは彼、だったもの。
立っていたのは、生々しい血に濡れた、男。
老人とよばれる年のその男は、抜き身の刀を赤い色に染めたまま立っていた。
彼だったものを見つめて。
「ふん」
刀を一振りすると、私の足元までその赤が飛んできた。
見下ろす間に地面に吸い込まれて黒ずんだ色に変わる。
「…わしの勝ちじゃ」
吐き捨てて振り向いた老人と、目が、合った。
知らぬ間に手が足元に落ちていた剣を拾っていた。
どの死体からもぎ取ったのかはわからない。
その手の冷たさにも気付かなかった。
だが、そんなのはどうでもいいこと。
どうでもいいこと。
「ぁぁああああっっ!!」
叫んでいた。
怒りは敵だと、誰かの声で警鐘が鳴っている。
冷静になれ、冷静になれ。
…でもそんなことは無理だと、わかっていた。
彼が死んだ。
彼は殺されたのだ。
感情のまま振り回す刀は勿論軽く受け流され、足を払われて地面に倒れる。
それでも起き上がって刀を振った。
言葉を知らない獣のように叫び、ただ剣をたたきつけた。
願わくはこの一太刀が、老人の首を飛ばすよう祈りながら。
得意な武器に持ちかえれば、もしかしたら事態は変わったかもしれない。
だがそんな心のゆとりすらなくただ刀を振っていた。ふいに、
キン、と硬い音がして、私の手から刀が離れた。
後ろに数歩よろけた私の首に、老人の刀が突きつけられる。
未だ赤いその色に泣きたくなった、もう泣いていた事に気づかずに。
氷のように冷たくなったその赤は、確かにほんの少し前までは、温かかったのだ。
「小僧」
30にも近い私を捕まえて小僧はないだろうと、関係ない心が思った。
現実を認めたくない心が笑い出す前に老人は言った。
「これは、戦じゃ」
誰が何時何処で死んでも殺しても殺されても裏切ってもおかしくない時代。
「この男がお前にとって何だったか、わしは知らん。
お前も、お前が殺した男とわしの関係など知らんじゃろう?」
どの男だ?
へっぴり腰で剣を握っていた若者か?斧を豪快に振っていた騎士か。
弓矢部隊を率いていた青年か、補給物資を運んでいた少年か…
自分が切り裂いた数が多すぎて困惑する。
思い出せないほど人を切った。
思えないほど多くの、思いを切った。
「その、復讐みたいなもんじゃよ」
…復讐か、それはいい。
そう思い、壊れそうな心で私は笑った。
ならば私は、復讐の復讐をすればいい。それだけの話だ。
まだ、この手は動く。
つめで切り裂くことも、首を絞めることもできる。
自分の命さえ、惜しいと思わないなら。
背後から援軍の声がする。
刀を引いて、老人は去っていった。
殺されることも殺すことも出来なかった私だけが取り残される。
青い死体の中に。
誰かが馬を下りて、私の傍へ来た。
それを遠くに感じながら、私は泣いた。
あなただったものを抱きしめて名を呼んだ。
これからの生涯は復讐へと捧げましょう。
私を全てあなたへ捧げましょう。
「 」
だから最後に、
思いを告げる私の唇を許して。