双子といっても
そうは似ていないから
コンコン、というノックの音に、驚いて体が固まる。
「…人の弟に、何やってんだ?」
「えーっと、これには訳があってだな…」
静かな声音に、押さえ切れない怒りが込められていた。
「しかも、かなり荒らした後がある。これはきっと帝国の手の者の仕業に違いないな」
「その、えー…。あのだな、」
「人の弟を辱めただけでなく、王の部屋を漁り大切な書類を傷つけたその理由とは?」
言わずもがな、声の主はエドガーだ。
既に部屋の中にいるようだ、バタンと扉の閉められる音がした。
いつからいたのか、いや、いつから見られていたのか。
セッツァーが、エドガーが彼自身よりも大切にしている弟に、何をしているときから…。
靴音がコツコツと、だんだん近づいてくる。
それはセッツァーのすぐ後ろでぴたりと止まった。首筋に何かが押し当てられる。
「け、剣は反則だと思うぞ俺は」
「…答えろよ、空賊」
「誰が賊だよ、誰が」
「今お前が作り上げた、この部屋の惨状を見ても同じ口が叩けるか?」
折り曲げられ飛び散った書類、ばら撒かれた本や小物、落書きされた彼の弟。
セッツァーはすばやく頭をめぐらせる。冗談で済ませられる言い訳を探すのだ。
それ以外に、彼が生き残るすべはない。
「んー…えーっと、そうだ、そうだな。お前を誘き出すための罠と人質だぜ、これは」
「弟に落書きされたくなけりゃ、ってか?」
「そうだとも。俺の言うことを聞けー!ってな」
「…何をすればいい?」
「お?」
やけに素直なエドガーの様子に、セッツァーは驚く。
すっと剣が引かれ、首の後ろのプレッシャーもなくなった。
「何だよ、そんな素直にしてると逆に怖ェよ」
「マッシュを傷つけられるくらいなら…俺が…」
その声に、何か悲壮な決意のようなものがにじんでいる。
そういえば、弟に自由を譲るために、兄が国に拘束されることを選んだと言う話を聞いた気がする。
犠牲とか、人質とか、弟の関わるそういう言葉に、エドガーは無条件に従ってしまうのかもしれない。
「そうかそうか。だったら…」
気を良くしたセッツァーは体を反転させ、目の前にいるエドガーを見て、
「…ッ!?」
「かかったな!」
突然の激しい閃光。
「サ、サンビームか…っ!?」
目を開けていられずよろめいたセッツァーに、正面からエドガーが飛び掛る。
「この野郎!卑怯だぞ!」
「嘘でも人質とかほざく奴に、卑怯者扱いはされたくない!」
しばらく静かに乱闘は続いたが、閃光に目をやられ、のしかかられた体勢のセッツァーに勝ち目はなかった。
しかし。
「くぅ…っ」
「くそ…負けねえぞ…!」
その代わり、負けもしない。
両者の力は拮抗し、互いの腕を掴みあった状態で固まってしまった。
体重と力はエドガーの方があるのだが、セッツァーは足も使って、その体を押し返そうとする。
「畜生…!重てェよ砂漠王!」
「あ、謝って、フィガロの為に働くなら許してやる…!」
「お前の方こそ…、弟に手出しされたくなきゃ言うこと聞きやがれっ…!」
「て、手出しって!そういう誤解を招く言い方はやめろ!!」
「ほほう?どんな誤解をしたんだ?」
その言葉に、一瞬エドガーの力が緩む。
そこを見逃すセッツァーではない。腕に力を込め、体を反転させる。
「うわっ!?」
見事に体勢は入れ替わり、今度はセッツァーがエドガーにのしかかる。
「諦めて俺の言うことを聞きやがれ!」
「嫌だって言ってるだろ!!」
また両者の力が拮抗する。
ただし体勢を崩されたエドガーは足が使えず、腕だけで押し返さなければいけない。
このままでは力を消耗しあうばかりで決着はつかないと判断し、口論で気をそらす作戦に出る。
「どう見ても、お前が悪いだろ!書類ぐちゃぐちゃにしやがって!」
「お前が弟に任せて出てくからいけねえんだろ!」
「あの書類元に戻すの手伝えよ!フィガロの為に働け!」
そこでふと、セッツァーの力が緩んだ。
反撃しようとして、しかし訝しんで、エドガーも力を緩めたその時。
「…フィガロのためじゃなくて、お前のためになら、動いてやってもいいぜ?」
「え?…うわっ!?」
掴まれた腕が離され、セッツァーの両腕がエドガーの頭の横に立てられる。
顔が近い。落ちるセッツァーの銀の髪が、エドガーの金の髪に混ざる。
「セ、セッツァー…、近いよ…」
「俺は本気だぜ…?」
エドガーが真っ赤になってそらした視線を追い、セッツァーは顔を近づける。
「フィガロの為なんてデカい物じゃなく、お前一人の為になら……うごッ!!??」
瞬間、蒼白になってその動きを止める。
さきほど赤面していたのもどこへやら、エドガーがセッツァーを見上げて爽やかに笑っていた。
「…勝負は最後まで油断大敵だぜ、ギャンブラーさん?」
エドガーが振り上げた膝が、思いきり、その下腹に突き刺さっていた。
セッツァーはかすむ視界でその状況とエドガーの顔とを交互に見、小さく呟いた。
「こ、この卑怯者…」
視界が暗くなる。力が抜ける。なんと言っても急所だ。人類共通の急所なのだ。
さすが王にして敏腕の政治家。汚い。とてつもなく汚い。
実はエドガー自身にも精神的ダメージがかなり返ってはいるのだが、今のセッツァーには何も判断できない。
憎らしい爽やかな笑顔を心の恨みリストに刻みつけ、セッツァーは意識を手放した。
せめてもの反撃を込めて、エドガーの手首をしっかりと握り締めたまま。
「うわっ、離せよ!起き上がれないだろー!?」
先ほどの取っ組み合いで力を果たしたせいで、その体をのけることもできない。
「マッシュ、マッシュ!起きろっての!!」
騒ぎで忘れられていた男は、頭に小箱や花、背に毛皮のマントと兄への愛を飾ったまま、何事もなかったかのように寝こけている。
「くそ、離しやがれこのクソギャンブラーッ!」
王らしくない暴言は、彼自身の閉じた扉によって、誰にも届くことはなかった。
マッシュの頭の上の小箱だけが、開いた窓から流れてくる風にゆれていた。



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特に意味もなく分岐にしてみるテスト。
世界一どうでもいい分岐ssな自信があります!(ぉ

こう、騙しあいの応酬みたいにしたかったんですが、ただの阿呆二人に。
おっかしーなぁ??

読んでくださってありがとうございました!
 
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