月夜のキャプテン
壁に背をつけて、大きく深呼吸を一つ。
呼吸を整えて慎重に慎重に、ゆっくり一歩を踏み出す。
一歩、二歩、三歩、四歩…五歩。
立ち止まり、足を動かさないようにして振り向く。
先ほどまで背をつけていたはずの壁が、酷く遠く見えた。
見返ってまっすぐに手を伸ばすが、その手も向かい側へは届かない。
手を下ろし、再び歩を進める。
六歩、七歩…八歩…。
とん、と体の前面が壁に当たった。
どこか暖かい気のする木の壁に手を当て、目を閉じる。
…この壁には、傷がない。
折れた所もないし、もちろん下手に接ぎ接いだ所もない。
まっさらの、新品の…船だ。
頭を壁につける。
ごん、と思ったよりも大きい音が響いた。
「ぎゃー!!??」
「?」
叫び声と、何かが落ちるどんがらがしゃんという音。
「何だよチクショウ幽霊か!?おおおお前この天才除霊師キャプテンウソップ様がーって何だルフィか」
振り向くと、ものすごい勢いで後ずさって壁に隠れ、半身を乗り出した見慣れた姿があった。
床へと目をやれば、点けっ放しの懐中電灯が落ちている。先ほどのものが落ちた音の正体は、どうやらそれらしい。
「よォ、ウソップ!」
壁から体を離し、ルフィは片手を挙げる。
ウソップはそろそろと、しかし安心したような表情で寄ってきた。
「何だよ、お前かー。脅かすなよー」
「しっしっし、悪ィ!でもそっちが勝手に驚いたんじゃねェか」
「だってよ、こんな真夜中に、誰もいないはずの甲板から物音がしたらびっくりするだろ?」
「そうか?」
「そうだよ」
「んじゃ、そうなのかー」
納得したような表情でうんうん、と頷くルフィに、ウソップが呆れた顔を向けた。
「しっかしお前ェ、こんな夜中に何してたんだよ」
「お前こそ何してんだよ」
「おれか?おれぁ…」
そこで、ふと会話が途切れる。
ウソップが視線を向けるほうにルフィも視線をやるが、彼が何を見ているのかは分からなかった。
「…船を、見に来たんだ」
「あー、おれもだ。おれも船見てた!」
「ルフィもか?」
「おう!サニーはすげェ船だからな!」
「そうだな、サニーは…すげェ船だな」
ルフィはひまわり…もといライオンの船首に寄って、それをぺしぺしと叩きながら続ける。
「おれの9人目の仲間だなー!」
「9人目?」
「おう!まずゾロとー、ナミとー、サンジとー」
一本ずつ、指折り数えていく。
指ごとに思い出されるのは、仲間が増えていく喜びと、宴の酒の美味さだ。
「チョッパーとー、ロビンとー、フランキーとー、あと、」
そして残り四本の指をまとめて握り、向かい側に立つ胸にこぶしをつきつける。
「メリーとサニーとお前!」
ウソップはしばしぽかんとしていたようだが、急に慌てて後ろを向く。
「お前ェそれ…10本指折ったら意味ねーだろ…っ、…それに船は人じゃなくて隻だしっ」
「あ、そーか!…ん?どうしたんだ?」
「バカ!うっせェよ!見んな!!」
「バカは酷ェなー!」
意味が分からずぶーたれるルフィを背に、ウソップは目元をごしごしと腕でこする。
そしてルフィは、視線をウソップの背から、甲板を通り越し、その上のマスト、帆へ。
今はたたまれていて見えないが、そこに描かれているのはお馴染みとなった麦わらのマーク。
「なァ、ウソップ」
「…ん?何だ?」
「あのドクロマークさ、フランキーが描いたんだ」
「そうなのか」
ウソップも、その帆を見上げる。
帆と旗と。
今は無風にしおれてはいるが、それが堂々と翻り張る様を、生き生きと想像することができる。
「だけどアイツ、絵下手だからなー」
「お前が言うかっ」
「にししっ」
ルフィが振り返る。
月の光の中で笑う。
「だからよー!お前が描きなおしてくれ!」
「いいのか?後でフランキーに怒られんのは嫌だぞおれ」
「大丈夫!おれが保障する!」
「いや、当てにならねーよ」
「でもよー、やっぱお前の絵がいいんだ。旗は」
「帆も?」
「帆も!」
「…へへっ、お前がそこまで言うならなー、じゃ、ま、明日にでも描くかー!」
「おうっ!おれも手伝うぞ!」
「止めろ!ペンキが勿体ねェ!!」
ルフィは月明かりの中で笑いながら、なんとなくつっかえていたものがなくなったのを感じた。
勢いをつけて船べりに手をかけ、飛び乗る。
暖かさはそのままに、新品であることが、何だか嬉しく思えた。
「よしっ!明日ドクロ描けたら、宴やろーぜ!」
「おいおい、昨日したばっかだろ」
「いいんだよ!海賊は食べて飲んで騒いで歌うんだ!」
よし、次は音楽家仲間にするぞ!と高らかに宣言。
想像の中でまだ見ぬ仲間を乗せ、颯爽と海を進むその船にはいつだって、あのドクロが描かれている。
この広い甲板も、見上げてあのドクロが翻っているなら幸せだな、とルフィは思った。
 
「帆も?」が「ホモ?」に変換されたので諦めた。
そ、そんなつもりじゃ!!
…いやしかしルウソもあるあ…あるあるある(あるか?

サニーの旗って誰が描いたんだろう、と思って17歳コンビ。
一度壮大にケンカしたんだから、きっともう大丈夫。
狙撃手が、ルフィが負けるわけねェ!って言うの凄く好き。
皆思ってることだけど、最初に口に出るって言うか。
いや、単に黙ってられない性質なだけかもしれんが。

あとゾロがルフィを船長(キャプテン)って呼ぶのが好き。
ルフィとゾロの話読みたい。書きたい。
 
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