きらきら!
空には、少しふっくらとした三日月が浮かんでいる。
晴れた夜空、風も波も穏やかで、どこかのんびりとした夜だった。
夕飯こそ終わったものの、まだ8時9時、眠ってしまうには早すぎる。
今夜の見張り当番はチョッパーだったが、まだまだ眠くないルフィとウソップと共に見張り台の上で遊んでいた。
「よっしゃ、次はおれの番っ!」
腕をぐるぐる振り回しながら嬉々として叫んだルフィの手にはウソップのパチンコ。
格好ばかりは良く、目標を定める。
バチン、という重い音と共に弾は飛び出し、『目標』の頭上を高く飛び越え夜の海へ。
「ちっくしょー、また外れかー」
「次おれ!次はおれの番だっ!」
うなだれるルフィの手からチョッパーがパチンコを奪い取り、同じ『目標』に狙いを定めた。
「おいおい、特製・やわらか星の個数には限りがあるんだぞー」
横から、見張り台の壁に寄りかかったウソップが口を挟む。
発案者がルフィだったかウソップだったかは当人たちも忘れていようが、随分長い間熱中しているそれは、単に目標に早く弾を当てたほうが勝ちと言うそれだけのゲームだ。
目標は甲板の端で『船を漕ぐ』ゾロの緑の頭。
もちろんウソップ特製・やわらか星は布製で軽く、当たっても痛くはない。
しかし、外し続けているとはいえルフィとチョッパーが共に10発ずつ辺りに散らし、ウソップがお手本と称して鼻の頭に当てているにも拘らず大口開けて眠り続けているゾロは大したものだ。
「ね、あれ…」
「剣士さんは大物ね」
それを指差してナミとロビンがくすくす笑い合うところに、サンジがデザートを運んでくる。
「お待たせいたしました。食後のデザート、みかんのババロアでございます」
「わぁっ、おいしそう!ありがとう、サンジくん」
「ほんと、おいしそうね。コーヒーも頂けるかしら?」
「もっちろん喜んでェ!ナミさんは?コーヒー入れようか!?」
「それじゃ、お願いしてもいい?」
「はぁーい!今お持ちいたしますねェ〜!!」
メロリンモードで足取りも軽く、サンジはまたキッチンへ消えていく。
「うおー!ナミ!ロビン!それ何だ!?」
気付いたのはルフィで、同時に伸ばした右手は、しかしナミにはたき落とされる。
「これは私の。あんたのじゃないの」
「ずーりーいー!!サンジおれのは!?」
「あるわけあるか、クソゴム」
キッチンからひょい、と顔を覗かせてサンジ。
その手には2つのコーヒーと4つのババロアが乗っているが、その中にルフィの皿はない。
「テメェ、夕飯のステーキ、ウソップとチョッパーの分まで食いやがっただろ。罰だ罰罰」
「ええー!!??」
ガーンと音がしそうなほどのショックを受け、ルフィがよろよろと倒れこむ。
「残念だったなァルフィ!おれのはわけてやんねェぞ!な、チョッパー」
「おう!おれ肉食えなかった!!」
そのルフィを両側から挟んで、ウソップとチョッパーがここぞとばかりに責め立てる。
「あああー、せーっかくサンジくんがおれたちのた・め・に、心を込めて焼いてくれたステーキがなー」
「焼き方何がいいって聞かれたからおれウェルダンがいいって言ったんだぞー…」
「なーのに、まだレアだっつーのに、誰かさんに食われちまったからなーァ」
「おれのステーキー…」
「おれのみかんババロア…」
「…ルフィあんた、自業自得って言葉知ってる?」
「うふふ、やっぱり船長さんは面白いわね」
「笑い事じゃないわよ、ロビン」
「そうだぞ、笑い事じゃねェぞロビン。おれたちは腹減ったんだ」
「そうだぞ!おれたちは腹減ってるんだ!」
ナミのツッコミや周りの話し声も耳に入らないように、ルフィの視線はサンジの手の上、淡いオレンジのババロアに注がれている。
その口元からだらだらと涎が垂れていた。
「…そうだ」
そんなルフィと、これだけ騒がしくしても起きてこない甲板のマリモ頭とを見て、サンジがふと思いついたように口を開く。
「おいルフィ、これ食いたいか?」
「食う!」
「いや、食いたいかって聞いてんだよ…ま、食いたいってことだよな」
「おう!おれはそれ食いたいぞ!!」
「じゃ、勝負をしよう」
「勝負?」
「さっきお前ら、マリモ当てゲームしてただろ」
こくんとうなずくルフィ。何事だと、見張り台からウソップとチョッパーも顔を出す。
「ルールは?」
「おれとチョッパーが交互に弾撃って、先にゾロに当てた奴が勝ちだ!」
「じゃあ、勝った奴にババロアをやろう」
「いーのかー!?」
急にルフィの目が輝く。
「よっしゃー!!絶対勝つぞー!!」
「サ、サンジ!おれが勝ったら?おれが勝ったらどうなるんだ!?」
「勝った奴にやるって言っただろ?もう一個食えるぜ」
「よっしゃー!おれルフィに負けねェぞ!」
「馬鹿言え!勝つのはおれだ!!」
「お前らずりィぞ!おれも参加させろ!」
「ウソップが参加したら絶対勝つから駄目だ!」
「ああ駄目だ!」
ルフィとチョッパーの息の合った拒否に、ウソップは大げさに天を仰ぎ目を覆う。
「ああなんて悲劇!おれの類まれなる狙撃の腕が、今ここで一つの悲劇を生んだ!」
「おおー」
「おおー」
何が何だかわからないままに、ルフィとチョッパーが拍手をする。
「料理人さん、でも、いいの?」
「んん?」
「あなたが賞品にしているその一皿、剣士さんの分でしょう?」
「ああ、いいんだよアイツは。せっかくこうやって美味ェもん作ったって目ェ覚ましゃしねェ」
「ゾロはねー。しょうがないわよねー」
寝てても食べ物の匂いに釣られて起きてくるルフィと正反対で、食べ物の匂いがしようが冒険の匂いがしようが大爆睡なんだから、とナミが肩をすくめる。
「まったく、美味ェもん作ってやろうって張り合いがねェよなァ」
「剣士さんが目を覚ましちゃうくらいいい匂いのするものを作らなきゃね」
「そうそう、毎日が戦いなんですよ」
そう言ってサンジがゾロを眺める目は他の男たちに向ける目と同じ目で、やっぱりサンジくんは優しいなとナミは思った。
そしてその視線の先で。
「うおー!!また外れたああああ」
「おれの番っ!おれが二つ食うんだ!」
「よしチョッパー、的を狙うときには25度くらい上を狙ってだな…」
「うお、ウソップずりィぞ!チョッパー贔屓しやがって!」
「よーし、わかったぞ、この角度だなウソップ!」
「良し撃てェ!そして勝ったらババロア半分くれ」
「何ィー!?嫌だぞおれのババロアはおれのだー!」
「あ、外れた」
「よしっおれの番!おれの番!」
「いや待てここはやっぱりおれがー!」
自分のパチンコを奪い返したウソップが、弾をパチンコに込め、
「ん?何でウソップ上を狙うんだ?ゾロは下だぞ?」
「いいんだよ、これで…そらァ!」
空に向かって一弾を放った。
それを、ルフィが、チョッパーが、サンジが、ナミが、ロビンが、視線で追う。

―パァン!!

その瞬間、夜空に花が咲いた。
「おー!!!」
「すげェ!綺麗だッ!!」
「へェ、花火か?」
「すごいじゃない、ウソップ!綺麗だったわよー」
「夜空に咲く花なんて素敵ね」
口々に褒められ、ウソップはまんざらでもない調子で鼻をこする。
「火薬星の火薬の込め方変えてみたんだ。こんな綺麗にいくとは思わなかった」
「すっげェなァ!な、もう一発ねェのか!?」
「おう、あるとも!だがその前に…サンジ!見ただろ今の!」
嬉しそうなルフィの台詞に胸を張るウソップ。しかしその視線をすぐにルフィから外す。
「ん?」
「どう見てもおれの勝ちだ!だからおれにもう一個ババロアくれ!」
「あーずりィぞ!!」
「ずりィぞウソップ!」
ルフィとチョッパーが文句を言うのを無視し、サンジは隣にいるナミたちに視線を移す。
「どう思います、レディ方?」
「そうねぇ、綺麗だったからいいんじゃない?」
「剣士さんが痛い思いをしないでいいなら、いいんじゃないかしら」
「ロビン、あれ布玉よ?当たったって痛くないに決まってるじゃない」
「そうだったの?てっきり私は、皆であの剣士さんの頭を撃ち抜いて殺そうとしているのかと」
「怖いこと言わないでっ!」
くすくすと笑うロビンに、ナミはどっと疲れた様子で椅子の背にもたれる。
「だ、そうだ。良かったな長ッ鼻」
「よっしゃー!」
「ずーりーいー!」
「ずーりーいー!」
「だー!おれの勝ちだってみんな認めてるだろ!」
「ずーりーいー!」
「ずーりーいー!」
そして見張り台の上で始まる乱闘。
どたばたと、甲板からは時折飛び出す三人の手足しか見えない。
「おいおいお前ら、あんまり暴れてると…」
サンジの忠告は一瞬遅かった。
「…ったく、五月蝿ェなァ…」
甲板で魔獣が目をさます。マリモ色の頭をかきながら。
くわぁとあくびをし、上げた視線がサンジの手元にあるモノを見つけた。
「…ん?アホコック、それ何だ?」
「アホは余計だクソマリモ。…食後のデザートだよ」
「おれの分か?」
「そうさ。ほれ、スプーン」
「ああ、悪ィな。………ごっそさん」
「早ェな!もっと味わって食えよ」
どかりと座り込んで、三口で平らげる。
その時になってやっと、見張り台から角の生えた頭が覗いた。
「あー!!」
「どうしたチョッパー…あー!!」
「ああああ!!おれのババロアー!!!」
「ん?何…ぐぉお!?」
事情を飲み込めないゾロの頭の上に、三人が降ってくる。
ゴムはいいとして、残りの二人を何とか受け止めようとしたゾロは、三人の重みでべたりと甲板に潰された。
「返せ!返せよー!」
「おれが食うはずだったんだぞー!」
「いやルフィおれのになるはずだっただろ!花火まで披露したのに!」
「な、何、おれ、が、何し、たんだって、んだ!!」
前後左右、三人にがくがくと揺さぶられながら、まだ事情を飲み込めないゾロが叫ぶ。
「やっぱり、船長さんたちは面白いわね」
「まったく…船壊すんじゃないわよー?」
「っていうかあいつら、まだ自分の分も食ってねェじゃねェかよ」
テーブルの上に置かれた手付かずの5皿を見て、サンジがため息をつく。
「…まァいいや。ナミさん、ロビンちゃん、先に食べちゃいましょ」
「そうね」
「あ、じゃあこういうのはどう?ここに3人いて、残りのババロアは5つなんだから、3人でこうやって…」
「あー!!ナミがー!」
「ナミー!!おれのババロアは渡さねェぞー!!」
「いや違うだろルフィ!お前のババロアは最初っからねェんだって!」
「だから…おれが一体何を…」
三人に馬乗りにされて力尽きたゾロがぼそりと呟いたが、誰の耳にも届かなかった。

そうして今日も、いつも通りの一日が終わる。
 
そんな一日がきらきら!

見所の全くないだらだらとしたお話になりました。
女の子たちの出番が少ないなーナミさんもっと書きたい。

それにしてもエクスクラメーションマークが多い文章だ。
 
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