「876、877、878…」
「!!」
数えながらダンベルを振り下ろす。
「879、880、881…」
「!!」
しかし、今日は少々集中力が足りないような気がするのは。
「882、883、……884…」
「!!」
「…885……、…何か用か?」
「ゾロはスゲーなー!!」
随分と低い所から見上げるきらきらした視線を向けられて、ゾロは。
「…」
「あれ?もうやめるのか?中途半端な回数だぞ?」
「…お前が来たから、一休みだ」
もう今日は集中できねェやと思って、ダンベルをそっと地面に下ろした。
小さな親切
ゾロが後甲板の端に座り込むと、チョッパーもとてとてと寄ってきて隣に座った。
そのままにこにこ見上げてくるから、もう一度、何か用かと聞く。
「あ、おれ差し入れ運んできたんだ!」
「差し入れ?」
「サンジが、お前んところに持ってけって!」
飲み物だ、とチョッパーは勢い良くカップを差し出す。
はい!と元気良く差し出され、周りについた水滴が手にかかった。
周りに水滴がつくほど冷やされたそれを、どうやって掴んでいるのか未だに分かりかねる蹄から、さんきゅ、と答えて受け取った。
「中身何だって?」
カップには蓋がついていて中が分からない。
どうやら、ささったストローで飲まなければいけないらしい。
こういったカップは、ルフィやチョッパーには良く出されるものの、自分に出されることは余りない。
茶や酒を入れるには、どう考えたって不向きだからだ。
「飲んでみればわかるぞっ!」
首をかしげるゾロの前で、チョッパーは何か企んでいるような顔で微笑んだ。
いや、企みを隠そうとしているのがありありと分かる、という顔である。
「…おう」
その表情に若干の疑問を抱きながら、ゾロはストローに口をつけた。
「…」
甘。
甘い。非常に。
口の中に流れ込んだ甘ったるいそれを良く味わえば、それはフルーツオレのようだった。
果汁の味とミルクの味と、それらを整えるためなのだろう甘味系の味が、口の中に広がる。
スポーツ飲料か茶か何かだと思って一気にあおったのがいけなかった。舌と喉に絡まる甘ったるい液体を、何とかのどの奥に流し込む。
ふと、自分を見つめる視線が何かを求めていることに気付き、眉根を寄せたまま、口を開いた。
「………フルーツオレか?」
「そうだ!良く分かったなーさすがゾロだなー」
何がさすがなのかはわからないが、チョッパーはにこにこしてゾロを見上げる。
「美味い?」
「……………おう」
実は甘いものは得意ではないのだが、余りにチョッパーが嬉しそうに聞いてくるので、思わず頷いてしまった。
「そっか、良かった!フルーツオレ、おれの好物なんだ」
「…そうか」
「美味いよな!」
「お前は飲まないのか?」
チョッパーの手にも、同じようなカップがあるのだ。
しかしこちらには蓋はついておらず、ストローも刺さっていない。
中を覗けば、どうやら冷やされた緑茶のようだった。
「茶か?」
「え?あ、うん、多分…そう」
質問すると、歯切れの悪い答えが返ってきた。
「お前、あんまり茶ァ好きじゃねェんじゃなかったのか?」
前に、そんな話を聞いたことがあった気がする。
自分が茶を飲んでいて、チョッパーが何かジュースを飲んでいたときの事だ。
―おれは苦いの苦手だな、甘いのが好きだな。ゾロはスゲーなー!
―…そうか。
―でも、甘いののが美味しいぞ?ゾロはそうじゃないのか?
―あー…そうだな、甘いのは美味ェ、かな。
―だよな!?甘いのはうまいよな!!
そんな会話をしたことを、ふと思い出した。
「ち、違うよ!おれ、苦いの苦手じゃないぞ!これはおれの茶で、ゾロのじゃねェからな!!」
あたふたと、ゾロを見上げて言葉をつむぐチョッパー。
あ、そうかと唐突に理解した。
このフルーツオレはチョッパーのもので、茶がゾロのものだったのだろう。
チョッパーはその会話をずっと気にかけていて、今日のこのタイミングで『大好きで美味しい』甘いものをゾロに譲ってくれようとしたのだ。
『苦手であんまり美味しくない』苦いものを自分が引き受けて。
「…」
小さく、ため息をついた。
言葉を選んでから口を開く。自分は、あんまりこういうのは得意ではないのに。
「あー…でもな、運動の後だから一気に飲めねェな」
「?ゆっくり飲めばいいんだぞ」
「コックの奴がせっかく冷やしてくれてたんだろ。なのに、ヌルくなっちまったら申し訳ねェと思わねェか?」
「あ…それはそうかもしれねェな…」
サンジは一流の料理人だ。おいしいものがさらに一番おいしいタイミングを知っていて、そのタイミングで食べられるように振舞う。
このカップだって非常に冷えていて、フルーツオレに使われているのであろうリンゴやみかんの味すら見分けられるほどだ。
「そっか、今飲めなかったらヌルくなっちゃって、サンジに悪いかもしれないな」
「だろ?そこで提案だが…」
「?」
「その茶ァ飲み終わってからでいいから、こっちも飲んでくれねェか?」
「いいのか!?…じゃなくて、ゾロは大丈夫なのか?」
「ああ。今はあんまり喉かわいてねェからな」
「じゃあ、おれ貰っちゃうぞ!本当にいいのか?」
「ああ」
カップを差し出す。
慌ててチョッパーは自分のカップを飲み干し、苦そうに眉根を寄せてから、あせるようにゾロのカップを受け取った。
「あ、ありがと」
「そりゃあ、こっちの台詞だろ?」
「何で?」
「飲み物運んでくれたし、おれの飲み切れねェ分も飲んでくれんだろ。それに…」
「それに?」
「フルーツオレなんて初めて飲んだぜ。美味かった、ありがとな」
「っ…サ、サンジだ!作ったのは!だからサンジに礼を言った方がいいと思うぞ!」
礼なんて言われたって嬉しくねェぞコノヤロー!と隠し切れない笑顔を浮かべるチョッパーを見て、まあ、たまには甘いもんもいいかな、とゾロは思った。
それから数日間チョッパーからフルーツオレを運ばれ続け、腹の辺りに贅肉がほんのちょっとついてしまい、一層トレーニングが激しくなった…というのは、ゾロ以外は誰も知らない話。
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チョッパーがマリモにしがみついてるのはかわいいなーというお話(何か違う)。
デイビーバックの辺りのチョッパーに対するゾロが格好良すぎた記念。
ゾロは強いなーという視線を向けるチョッパーは、ウソップやフランキーに向けるすごいなーとは違う気がする。
初めて狙撃手の存在のない文章になった!わーい!
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