「おれは昔、白いカラスを見たことがある!」
「ほう」
「いや、本当だぞ」
背中に翼 唇に嘘を
昼下がりのキッチン。
皿洗い中のサンジと、隅で工場を開いているウソップだけがそこにいた。
集中して何か道具をいじっているウソップは妙に無口で、かたかたかりかりと道具をいじる音、パシャパシャからからと皿を洗う音だけが太陽差すキッチンに響いていた。
仲間一うるさいはずのウソップが無言なのが何となく気になり、サンジが「何か話せ」と言ったところ、少々悩んだあとに出てきた話題が、冒頭のそれである。
「知ってるか、白いカラスの伝説を?」
「いや」
「奴は神様の使いでな。何でも、良い行いをした者の元に現れて、一つ願い事をかなえてくれるそうだ」
「ほう」
「で、だ。白いカラスに出会ったキャプテン・ウソップ様は、一体何を願ったと思う?」
「さあ」
「…さっきからお前、失礼だなー。お前が何か話せって言ったんだろ」
「聞いてるよ。白いカラスは願い事を叶えてくれるんだろ?」
サンジが、ちょっと前に部分的に耳に入っていた部分を繰り返すと、ウソップは大きくため息をついたあと、ま、いいんだけどさ、と呟いた。
「でー、おれが何を願ったかって話だ」
「何を願ったんだ」
話を続けるウソップに、さすがにこれは自分が悪かったと思い、言葉を返す。
背後でちょっとだけ、ウソップの機嫌が直ったのが、雰囲気で分かった。
「何を願ったと思う?」
「知らねェよ」
「何でもいいからさー、言って見ろって」
「人並みの鼻になりますように」
「テメー失礼だぞ!!」
おれさまのチャームポイントに向かって、と、ウソップはあまり本気でない怒りを込めて、何かをサンジの後ろ頭に投げつけた。
「イテ」
足元に転がったものをと見ると、それはどうやらネジのようであった。拾い上げると、ウソップは困ったような声を上げる。
「あ、悪ィ、それ返してくれ。必要なネジだった」
サンジは、後ろも見ずにそれを放ってやった。
「ナイスボール!」
「ボールじゃねェだろ」
「ああ、じゃあ…えー…ナイスネジ?」
「ネジって。言語くらい合わせろよ」
とりあえず突っ込んで、呆れた声で続ける。
「…で?何を願ったんだ、キャプテンウソップ様は」
「『お前と同じ力が欲しい』」
ウソップは、そう答えた。
「お前と同じ、人の願いを一つ、叶えるための力が欲しい」
「へェ?」
もっと大冒険の話が始まると思ったのだが、その静かな願いに少々拍子抜けする。
「『よかろう』とカラスは言った。そして姿を消して、二度と現れることはなかった」
そこで、ウソップは満足げに大きく息をついた。
「…終わりか」
「うん」
「なんとも、お前らしくねェ話だな」
「そうか?」
「もっと冒険したりヒーローになったりする奴ばっか話すだろ、お前」
「でも、」
「ああ、いい、いい。結構楽しめた。ありがとうな」
「嘘じゃねえんだぞ」
「だったら証拠を見せてみろ」
変な話になってきた、とサンジは小さく舌打ちをした。そんな話がしたかったわけではない。ただ、お喋りの陽気な声で、陽気な話を聞きたかっただけで。
きっと次の瞬間うろたえたりしどろもどろになってしまって、嘘を突き通せなくなってしまうのだろう瞬間の訪れを予感し、サンジは苦い表情を作る。
「いいよ」
しかし、ウソップの台詞はそれだけだった。
「これでいいか?」
サンジは、振り返った。
ちょうど日の光が丸く差し込むその光の輪の中。
ウソップ工場、と名付けられた木箱の秘密基地。
そこに胡坐をかいて、サンジを得意そうに見上げるウソップ。
いつものオーバーオールと、右手にさきほどのネジ。
そしてその背に、小さな一対の白い翼。
その翼が、サンジの視線に反応してか小さく羽ばたいた。羽毛が、ふわりと舞う。
ウソップの笑みの形の唇がにやりと動いて、言葉をつむぐ。
「お前の望みは?」
す、と片手が差し出された。ネジを持っていない、空の手。
「言ってみろよ、叶えてやる」
いつも陽気な話をする陽気な声が、聞いたことのないような音に思えた。
差し出された手を、取る。
骨ばって荒れた少年の細い指に自分のそれを絡めながら、サンジは脳内に浮かんだ言葉を、そのまま声にした。
「おれの好きな奴が、カラスから人間に戻って、おれにキスしてくれること」
「…何だよ、恥ずかしい奴だな」
次の瞬間、サンジの唇に柔らかく濡れたものが押し付けられた。
後頭部を引き寄せられ、サンジも、自分に触れているその腰に腕を回し、強く自分に引き寄せる。
絡ませていたもう片側の指が、強く握られたので握り返した。
数秒の接触だったようにも、数時間の接触だったようにも感じ。
「―ほらな、叶った」
ゆっくりと離れ、数センチの距離でウソップが微笑んでいる。
「お前の好きな人は、カラスから人間に戻って、お前にキスしました」
ふと床に目をやれば、白い翼は金具とベルトごと床に落ちている。
「これでおれがちゃんと嘘つきじゃなかったことが証明されたろ」
「―いや、やっぱりお前は嘘つきさ」
ウソップの腰にまわしていた腕に、少し力を込める。
「おれは何もいいことなんかしてねェのに、願いを叶えやがった。嘘つきさ」
「馬鹿だろお前」
頭をはたかれた。絡ませていた指も抜かれ、呆然とした所で、ぎゅ、と首にしがみつかれる。
「お前、おれの話を望んでくれただろ」
サンジの返事も聞かずにもう一度押し付けられた唇は暖かく、その一瞬前に見えた表情は真っ赤だったので。
(ああ、クソ)
この唇が離れたら、確かにお前は嘘つきじゃなかったなと、おれは謝らなければいけない。
だからもう少し。
もう少し長い間、この唇を塞いでいて。
 
嘘の子の肩甲骨ってかなりセクシィなんじゃないかと思った記念。
ああもう何あのオーバーオール。
すごいかわいい。

だが何だか非常に恥ずかしい話だなこれ…
よくわからんが一人サンウソラブラブブーム。
 
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