いち たす いち
「お前にできねェことはおれがやる。おれにできねェことをお前がやれ!!」
戦う料理人は、胸を張り言った。
「お前がいれば、ナミさんを救えるんだ!!」
誇り高き狙撃手は答えた。
「…あの感動的な台詞を、こんなときに使って欲しくなかったよなァ」
愛用のパチンコに特製の弾をセットし、呆れた声音と正反対の真面目な目つきで、部屋の隅の、その『黒』に狙いを定める。
パシィン!と、小気味いい音が響いた。
広がる白に覆われ見えなくなる黒。
「……や、やったか?」
「やったよ。新聞取ってくれ」
「お、おう」
微妙に視線を逸らしながら、サンジは手元にあった新聞をウソップに渡す。
「あーあー、新作のトリモチ星を、こんなところで使っちまうとはなァ…」
ウソップは拗ねたような口調でそう言い、新聞を数枚重ねて広げた。
サンジを振り返り、半目で睨みつける。
「っていうかよ、お前がナミに頼まれたんだろ」
「おれがナミさんに言われたのは『アレをどうにかして!』ってことだけだ!」
「…んで、おれに押し付けるのが『どうにか』だってことなのね」
「そういうことだ!」
胸を張るサンジ。どん!という効果音が聞こえてきそうだ。
ウソップは嘆息し、女部屋の隅に広がったトリモチを新聞で拾い上げる。
その中にちゃんと目的の『黒』がいることを確かめ、慎重に丸めた。
『黒』…つまり六本足の神速とか呂布とか呼ばれたりする例のアレである。
「あー…でも助かったぜ」
どうもああいう虫は駄目なんだ、とサンジが肩をすくめる。
「お礼に今日はお前の好きなもん作ってやる。何がいい?」
「マジか!?じゃあ魚だ!丸焼きで!」
「丸焼きねェ…料理人の腕が余り発揮できねェからなァ」
「何だよ!おれの好きなもん作ってくれるつったのはお前だろ?!」
「わ、わかってるからそれ近づけるんじゃねェよ!」
「ねえサンジくーん、そろそろ終わったー…?」
そんな風に言い争っていると、そろそろと扉が開いて、顔を出したのはナミ。
「んナァミすわァん!終わったよ!!」
とたんにラブハリケーン、高速で走り寄ってサンジ。
「聞けよ人の話を!」
間髪要れず裏手ツッコミのウソップ。
「ああ良かった。ありがとねサンジくん」
「ナミさんのためなら、おれは何だってするぜー!」
「おめェは何にもしてねェだろ!!」
「今日は昼間から大変だったねナミさん。おやつでも作ろうか!?」
サンジはナミと嬉しそうに話しながら、部屋を出て行く。
「…まったくよー」
一人取り残されたウソップは、聞く者もいないのに盛大にため息をついた。
しかし、呆れた声音の中に違う色が隠しきれていないことに、自分でも気付いている。
「…」
(お前にできねェことはおれがやる。おれにできねェことをお前がやれ!!)
…とても、嬉しかったのだ。
初めて役に立った。そんな気がした。
自分では当たり前すぎていたことが、他人の役に立てるのだと。
こんな自分でも、誰かの役に立って、誰かを救うことが出来るのだと。
「…礼を言うのは、こっちだっての」
堅く丸めた新聞を、何気なく離れたゴミ箱の方へ放る。
それは綺麗な放物線を描き、カコンと軽い音を立て、ゴミ箱の中へ吸い込まれた。
 
女部屋のゴミ箱にGを捨てたので、後でナミさんにはたかれます。

サンジは虫嫌いと勝手に思ってたけど、読み直したら苦手なのは「気味悪ィ系の虫」だった。
Gは…蹴り殺しそうな気がしてきた。
いや、だが不潔だから触りたくないか…?
 
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