騒がしい夕食が終わり、一味はそれぞれ好き勝手に散っていった。
ナミは風呂へ、ロビンは本を読みに部屋へ。
ルフィとウソップ、チョッパーは騒がしく甲板に遊びに。ゾロも甲板に出たようだが、こちらは眠るためだろう。
そしてサンジは一人、派手に散らかったテーブルを見下ろしてため息をついた。
「…ったくあいつ等、散らかすだけ散らかしやがって…」
骨付き肉…だった骨、ワインの栓、折れた箸、こぼれた水に無数の食いカス。
はあ、とため息をつき、キッチン横に置いてある雑巾に手を伸ばしたときだった。
「うはー!寒ィ寒ィ…」
食堂の扉を開けて入ってきたのは、ウソップである。長い鼻の先を赤くし、両手を体に巻きつけて。
大またで入ってきて、後ろ手にバタンとドアを閉めた。
「おう、どうした?何かあったか?」
「ああ、いや、どうもこの辺り冬島の気候の範囲みたいでさ。外、すっげえ寒ィの」
「言う割にゃあ、他のやつらは堪えてねえみてえだが?」
指差した窓の外には元気に走り回るルフィとチョッパー。そしてその向こうで壁にもたれて眠るマリモ頭。
「あいつらがバケモノなだけさ。とにかくおれは駄目だ。寒ィ」
ここは暖かくていいなー、と椅子を引き、勝手に座る。
「おいおい、そこは今片付けてる最中だぜ」
「お?そりゃすまねえ」
手伝うか?とのありがたい申し出に、頼むと返した。
その手はいつもさりげない
「お前くらいのもんさ、こういうこと手伝ってくれんのはよ」
机の上と周りの掃除はウソップに任せ、サンジは皿洗いに専念することにした。
その呟きに、ちりとりとほうきを手にしたウソップが振り返る。
「ルフィやゾロに期待するのは無理として…ナミやロビンは?結構そういうとこ細けえと思うんだが」
「おいおいテメェはレディに寒い中水仕事しろってか?冬の水仕事は、手がクソ痛くなるんだぞ」
「あー…そりゃ悪ィこと言ったな」
レディにクソ優しい紳士ことサンジの台詞に、ウソップは半目で答えた。
「ったく、本当に散らかってるなー。ルフィの周りだけ。やけに。」
「本当、アイツの食べ方はどうにかならんもんかね。毎回片付けるのに一苦労だ」
「うわー、皿ごと落ちてるし。食べ物は綺麗に食べきってるみたいだけど。…ほい」
「こりゃソースまで綺麗に舐めきって。…まあ、料理人としちゃ嬉しい限りではあるけどな」
「はは、ルフィにゃあ嫌いなもんってのがないみたいだからなあ」
うし、掃除終わり、と立ち上がったウソップを、サンジは横目で睨んだ。
「そういうお前さんは、嫌いなものがあるんだっけな?」
「あー、うー…まあ、誰にだって苦手なものの一つや二つや三つや四つや…」
「多い、多い。誰にだってって言う前に『ルフィに嫌いなものはない』って言ってんのはどこのどいつだよ」
「まあ、それはそれとして置いておいてだなあ…」
ごにょごにょと言い訳を始めたウソップに背を向け、密かに笑む。
ルフィやチョッパーもだが、からかいがいのある相手と話すのは面白いものだ。
その中でもウソップは良識やら常識やらがある方だから、こうして言い負かした時には少し嬉しくなる。
「…そう!つまり『食ったら死ぬ病』!だから嫌いとか嫌いじゃないとかじゃなくてだな…」
まだ言い訳を続けていたウソップを振り返って、最終攻撃。
「そうそう、明日は焼き魚とキノコ炒めの予定だからな。ちゃんと残さず食えよ」
「ぬぬ!?何だよそのメニュー!」
「いや、いい魚とキノコが手に入ったからな。お前魚好きだろ」
「好きだけどよー…ってあれ、おれお前にそういう話したことあったっけ?」
「おれを誰だと思ってるんだ?人の好き嫌いくらい把握してねえで、何が料理人だっての」
「おー」
感心したような拍手に、にやりと笑みを返す。
「んじゃ、ロビンの好きなものは?」
「コーヒーに合うもの」
「ルフィは?」
「肉全般」
「ゾロは?」
「「知らねえ」」
「って言うと思ったぜー」
「クソ、読まれてたか」
視線が合って、同時に吹きだした。
「あー…このクソッ鼻め。全然片づけが進まねえよ」
「何だよおれのせいか?机周り片付けたじゃんかよー」
ぶーぶーと文句を言った後、くるりとサンジに背を向け、扉に手をかける。
「おれもう外戻るからな!チョッパーに射撃を教えてやるんだ」
「そりゃ頼もしい。風邪引くんじゃねーぞ」
「おお?そりゃ心配してくれてんのか?」
「馬鹿言え。熱でも出されちゃ、病人食作んなきゃいけなくなるだろ」
二種類作るのは手間なんだ、というサンジに、何か思いついた表情でウソップが答える。
「…つまり、熱出したら病人食なんだな?」
「ああ、そういうことに…ってちょっと待てェ!」
体ごと振り向いたツッコミは、よっしゃあ明日は病人食でキノコなし!と叫んで出て行く背中に届かなかったようだった。
「クソ…熱出そうがなんだろうが、明日は絶対キノコ食わしてやるからな…!」
あとには、妙な闘志を燃やすコックだけが残された。
「…でも、まァ…」
皿を洗う手を休め、ちらりと振り返る。
数分前までは食べかすの散らかりまくっていた机と床は、今や綺麗に掃き掃除されている。
寒ィ寒ィと言っていた割りに、上着も持たずに出て行った。
もしかしたら、自分を手伝うために戻ってきてくれたのかもしれない…なんて。
そんな自分に都合のいい事を考えて、素直じゃねェなァなんて呟いてみる。
「…助かったぜ、ありがとな」
料理人の小さな言葉は、外で船長と船医相手にパチンコの講義を開いている狙撃手には届かない。
 
お気遣いの狙撃手。

料理人と狙撃手と船医は「頼む」って言わなくても「手伝おうか」って来てくれるイメージ。
剣士と考古学者は、手伝ってくれるけどやり方が単刀直入なイメージ。
音楽家も手伝ってくれるけど、時折スカルジョークを含むので進まない。
船大工は余計なことまでしてくれそうなイメージ。
航海士に頼んだら金取られる。
船長が手伝うと状況が悪化する。


地味に続き。台詞だけ、引き続き料理人と狙撃手。
 
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