ロビンはいつものように本を読むため、アクアリウムバーを訪れた。
甲板で誰かが釣った魚が時折水槽を賑やかす以外は静かなもので、少々暗い照明が心を落ち着かせてくれる。
しかし、その日は何かが違うように感じた。
「…?」
毎日のように訪れているはずのそこは、水槽の中の顔ぶれが変わる以外の変化を、いつもならば持たない。
椅子やテーブルの位置も同じだし、照明の暗さもいつも通り。
しかし、ぐるりを見渡した視線が壁の一点を捉え、その違和感の理由を知る。
壁にかかっていたのは、他の調度品に合わせて作られた華奢な額に縁取られた一枚の絵。
歩み寄ればそれが、鮮やかな色彩で描かれた油彩の絵だという事が分かる。
描かれているのは、広い海を進む一隻の船。
その船首は見間違えるはずもない――ユーモラスな、羊の形をしていた。
船の絵
「コーヒーをお持ちしました、ロビンちゃん」
「料理人さん」
振り返ると、扉のところで優雅に一礼している姿が見えた。
片手に乗せた盆の上にはコーヒーカップのセット、それをまっすぐに保ちながら、ロビンの横に歩み寄ってくる。
「その絵を見ていたのかい?」
「ええ。いい絵ね」
フランキーが飾ったの?という質問に、サンジが笑う。
「飾ったのは確かにフランキーさ。でも買ってきたわけじゃねェんだ」
「…?誰かが描いたの?」
「ああ、その船に一番思いが深かったやつがね」
「長鼻くん?」
「その通り」
「絵が上手いのね」
「驚くことなかれ、うちの海賊旗もあいつの作品なんだよ」
「ふうん…」
もう一度絵を見る。
真っ青な海を、白波を立ててまっすぐに進んでいく羊船首の船。
輝くような海の青と、どこまでも広い空の青。
翻る海賊旗には、これも彼の作品だという麦わらの海賊旗が堂々と翻っている。
そこには誰も人物は描かれていないのに、そこで楽しい毎日を過ごす人々が見えるようだ。
例えば船首にしがみつく船長、マストの元で眠る剣士、船室で海図を眺める航海士。
甲板で釣りをする狙撃手とその隣で海を見つめる船医、キッチンで鍋を揺らす料理人。
そして、そのキッチンで本を読む考古学者。
「…」
砂漠の国を救って、空を飛んで、神を倒して、仲間を失いかけて、仲間を取り戻して。
どんな事件に巻き込まれても、どんな冒険が目の前に現れても、変わらずにずっと『皆』で進んで行けると思っていた日々。
それが『当たり前のこと』でないことに気付いたのは本当に最近で、得るものがあれば失うものもあると知ったのも最近のこと。
(…だけど)
これまで失い続けてきた―いや、失うものすら手に入れることのできなかった自分が、今全てを得つつあるという事実。
生きたいと言う思い。それはただ生き長らえたいのではなく、誰かと共に、願わくは彼等と共に、生きたいと言う願い。
それを教えてくれた船。
そして、それを見続けていいのだと教えてくれた船。
もう『居ない』その船の全ての思い出が、その絵には込められていた。
青い海をまっすぐに進む船。まっすぐにまっすぐに、夢へ向かって進んでいく船。
「…とても、いい絵ね」
全ての思いを語ることは難しい。
しかしその一言で、同じ絵を眺めている料理人には伝わったようだった。
肩をすくめ、微笑む。
「そりゃあ、アイツに言ってやってよ。きっと喜ぶぜ」
「そうね」
しばらくの沈黙。
それを破ったのは、料理人がテーブルにコトリと置いたコーヒーカップの音。
「じゃ、コーヒーここに置いとくから。何か食べたいものあったらいつでも声かけてね」
「ええ、ありがとう」
ひらひら、と軽く手を振り、置き土産にハート型の紫煙を残して料理人が出て行く。
ロビンは椅子を引いて、浅く腰掛ける。
口に運んだコーヒーはブラックで、ちょうどいい温度だった。
香りを楽しみながら、水槽を伺う。
今日は余り大物がいないらしい。きらきらした小魚が、群れを成して泳いでいた。
その鱗がかすかな明かりを反射するのを横目に、部屋から運んできた本をぺらりとめくる。
いつもは読むことのない、どこかの海で書かれた創作の冒険物語が、今日はとても面白く感じた。
 
料理人と考古学者。
考古学者のお話を一回書いてみたかった。
OPの女の子は強くてかわいくて最高だ!

こないだ某サイトで見たゾロロビが幸せすぎてゾロ出そうと思ったのに、
普通に現れたのは料理人でした^p^
しかも狙撃手の存在感。
結局いつも通りの登場人物で無念!です。
 
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