「おいサンジ!キッチンを空けろ!」
「馬鹿か、コックの聖域をクソゴムなんざに明け渡せるわけねェだろう!」
聖域と、その主は言う。でも。
「コックさん、ちょっと話がしたいのだけれど。その間、ナミたちにキッチンを貸してあげてくれないかしら?」
「ん喜んでェ、ロビンちゅわん!!」
…あっさりと、ラブハリケーンである。
おめでとうの日!
ということで、サンジをロビンが引き止めている間に、パーティの準備は急ピッチで進められた。
「あ、チョッパー、そこのナイフ取ってくれる?」
「これか?」
「うん、ありがと」
キッチンに立つのはナミで、その手伝いをするのはチョッパーだった。
いつも、男共が何か頼めばその見返りに法外な金を要求してくる守銭奴も、こんな日ばかりは無償で働くらしい。
「こんな感じかな。チョッパー、どう?」
「うん、すげー綺麗だぞ、ナミ!」
真っ白なクリームの塗られたケーキは、サンジの作るような豪華さはなかったが、手間と愛情をかけて作ったのが伝わってくる。
しかしその滑らかでシンプルなデザインに、チョッパーは首をかしげた。
「これで完成か?何かちょっと寂しいな」
サンジが作るものや売っているものはもうちょっと派手だ。
イチゴやチョコレートが乗っていなくても、白いクリームだけでもいくらでももっと装飾できるのに。
首をかしげるチョッパーに、ナミは微笑んだ。
「これからよ、デコレーションは。皆でやるの」
「皆で!?…おれもか!?」
「皆でって言ってるでしょ。あんたもよ」
「おれもかー…!!」
チョッパーの瞳がきらめいた。
ケーキのデコレーションなんてやったことがない。でも、きらきらと輝くようなケーキは大好きだし、自分にもあれを作れるのかと思うと、笑みは抑え切れなかった。
「じゃあ、あいつらが終わったらね」
「おう!」
チョッパーは蹄を握り締めた拳を突き上げた。

ナミの言う「あいつら」とはゾロとウソップの方だった。
ナミたちに料理を任せ、彼らは会場作りをしているのだ。
と言っても、積極的に動き回っているのはウソップで、ゾロはその後を付いてうろうろしたり、声をかけられたときに多少手伝ったりするくらいだ。
まあ、先ほどまで昼寝を決め込もうとしていたのに比べれば、働いていると言えなくもないのだが。
今もゾロは、テーブルに何かを置いていくウソップの手元を覗き込んでいる。
「ウソップ、そりゃァ何に使うんだ」
「ん?ああ、こりゃ単なる箸置きさ。さっき作ったんだ」
「さっき?…相変わらず細けェな」
色紙を細かく折ったそれには、それぞれの名前が描いてあった。
その7つの箸置きの中でも一番手間をかけたものを主役席に置きながら、ウソップはゾロを振り返って笑う。
「こんなちょっとだけでも、何かパーティっぽくなるだろ?」
「そうだな」
ゾロは、自分の割り当ての席に置かれたそれをつまんで持ち上げた。
「こーら。パーティ始まるまでお預けー」
取り上げられた。
「…っていうか、暇ならグラス運ぶとか皿配るとかしてくれよ」
「ああ」
ゾロはのっそりと顔を上げてキッチンを伺った。
きらきらした笑顔を上げたチョッパーと目が合った。
「おい、向こうはそろそろ準備が出来たみてェだぞ」
「何ィ!?ほら、お前が手伝ってくんねェから、皿とかグラスとか出しそこなったじゃねェか」
むっとした表情を作りながらも、でも楽しそうな色は隠しきれない。
誰もそうだ、とゾロは思う。
何たって今日は、仲間の誕生日なのだ。
サンジと犬猿の仲であるゾロでさえ、酒やごちそうの出るそのパーティが楽しみでないはずはない。
「ゾロ!ウソップ!そっち終わったのか!?」
チョッパーの声に、ゾロは片手を挙げて答えた。


鳴り響いたクラッカーはウソップのお手製で、それを鳴らしたのは主役を除いた6人。
当たりを引いたのはロビンで、その手のクラッカーからは小さなアヒルのマスコットが飛び出した。
降り注ぐ紙ふぶきとアヒルのマスコットを頭に載せて嬉しそうに微笑んだのは主役のサンジで、そのサンジに残りの6人から一斉におめでとうの言葉がかけられた。
ナミの差し出した大輪のバラの花束を受け取って、サンジはありがとう、と答えた。


「サンジ、ケーキうまかったか?」
聞いてきたのはチョッパーだ。
ナミがつくり、チョッパーたちが飾り付けたというそのケーキは既に全員の皿に切り分けられ、サンジの皿には3段重ねだった一番上の部分がある。
マジパンで作った、サンジを象ったらしい人形が頂上に残っているが、そのハート型の目を作ったのは多分ウソップだろうから、後で一発蹴りを入れておこうとサンジは思った。
「ああ。この、側面とこの模様が綺麗だな」
自分の皿に取り分けられた一切れを指差しながら答えると、チョッパーは嬉しそうに微笑んだ。
どうやら、それも彼が担当した一部分だったらしい。
「あ、そうだ、あとこれっ」
「ん?」
差し出されたものを受け取る。
ひづめの付いた小さな手から渡されたのは、やはり小さい、しかしカラフルな包み紙で包まれたキャンディのようなものだった。
「これは?」
「禁煙キャンディだ!」
がく、とサンジが肩を落とす。
「サンジはタバコ吸い過ぎだぞ!肺がんなんかになっちゃったら、この船の上じゃ治療はできねェからな!」
「あ、ああ、わかってる、わかってるって」
手の中の小さなキャンディたちに目を落とす。
くるくるとねじられた包み紙は不揃いで、しかもサンジの眉毛を象ったような模様だったりするから、これは市販のものではないのだろう。
「お前が作ったわけ?」
「お、おう。包み紙はウソップに作ってもらったんだけど」
小さなひづめでそれをつくり、包むのは大変な作業だっただろう。
クッキーなんかを作ったらそのラッピングにもこだわるサンジには、その大変さがわかる。
「ありがとな」
「へ、へへへっ!お礼なんか言われたって嬉しくなんかないんだからなコノヤロー!」
満面の笑みになり、ガッツポーズなんか決めるチョッパーの頭を、サンジは優しく撫でた。

「やる」
「は?」
チョッパーと談笑していたサンジの目の前に急に差し出されたのは、一本の酒瓶だった。
驚いてそのラベルをまじまじと見ると、日本酒のようなラベルの横に、小さな文字で料理酒、と書いてあった。
そしてそのビンを持つ腕をたどると、その付け根の肩の上に乗る頭は緑色。
「…お前さ、これ普通の酒と間違って買っただろ」
「安かったんだ」
かみ合わない会話。
しかしゾロの持つそれは、日本酒にしては安いだろうが、料理酒としては結構高い部類のものだ。
経済状況の厳しいこの船の上にいる限り、サンジには余り縁のなかったもの。
「…ま、ありがたく受け取っておくけどな」
でも、それを教えるのはちょっと癪な気がしたので、できるだけ気のない素振りで受け取った。
ゾロが満足げな表情を浮かべたのは気に食わなかったが、そのビンの肩のところに、不恰好に赤いリボンが巻いてあったのが微笑ましかったので、サンジも満足した表情を浮かべた。

「飲んでる?」
「ナミすゎん、ロビンちゅわん!」
二人の女性は、琥珀色の液体の揺れるグラスをサンジのそれにぶつけて微笑んだ。
「今日のワインね、ロビンが選んでくれたのよ」
「ロビンちゃんが!?どうりでセンスがいいと思ったよ!ケーキの甘さに良く合うね!」
「ありがとう。コックさんに褒めてもらえるなら、自信を持っていいのかしら」
「当たり前だよ!ロビンちゃんは本当にセンスがいいね」
でれりと目じりを下げ、もみ手をしながらサンジはくねくねと揺れる。
そんな今日の主役をちょっと呆れた目で見ていたナミは、その傍らに置かれた酒瓶に目を留めた。
「あら、これお酒?誰かに貰ったの?」
よれよれの赤いリボンは何度も結びなおした証だろうか、とナミはそのビンを持ち上げた。
「…やだ、これ料理酒じゃない」
「あら、本当ね。ラベルが水墨画風だから、日本酒かと思ったわ」
それを横から覗き込んで、ロビンが小さく笑った。
「それ、ゾロがくれたんだよ。珍しいこともあるもんだろ?」
「剣士さんが?」
「どうせ間違ったんでしょ」
いい気味だわ、とナミは鼻を鳴らした。
「アイツってば、自分の衣料品代まで酒とかつまみに使うのよ?信じられない」
上陸の際に、お小遣いとは別に渡される、必要なものを買うための金額だ。
それを、ゾロは酒やつまみ、それからおよそ必要とは思えない量の腹巻きに使ってしまうのだった。
ロビンは苦笑し、サンジはそうだねナミさん、と大きく頷いて同意した。
そこで一旦落ち着いた所で、
「…で、ナミすゎん、ロビンちゃん…は、ボクに何もくれないの、かな?」
上目遣いで、両手の人差し指をぶつけながらサンジは二人のレディを見上げた。
「さっきあげたでしょ?」
バラの花束、とナミが言った。
全員からのものかと思ったが、あれはナミだけからのプレゼントだったのか。
彼女から受け取ったというだけで幸せで、既に花瓶に入れてキッチンに運んでいたが、さらに5段階くらいレベルが上の花瓶に移さなければいけない気がする。
「ありがとう、ナミさん!!」
「その代わり、私の誕生日には10倍でお願いね?」
「ぃ喜んでェ!!」
両手を顔の横で組んで、大きく傾き目をハートにしてサンジは、元気に答えた。
「私からは、これを」
ロビンが胸元から取り出したものは……胸元から…、…胸元から?
「携帯灰皿なんだけれど…あら、大丈夫?」
「だ、大丈夫だよ、ありがとう、ロビンちゃん…!」
鼻を押さえ親指を立てたサンジを、ロビンは不思議そうな目で見ていた。

「で、お前は何もくれないわけ?」
「ほふ?」
ルフィと肉の奪い合いをし、逃げ走り回っているウソップが目の前に来たので聞いてみる。
口の中にケーキを詰め込んだ発音は不明瞭だったが、首を傾げたポーズで、何で?と聞き返しているのだろうことは分かる。
「ゾロもくれたんだぜ、プレゼント」
酒瓶を示してみると、ウソップは数秒視線を空中にさまよわせてから、ぽんと手を打った。
オーバーオールの胸元のポケットに手を突っ込んで、
「・・・」
そこではなかったらしい、今度は腰のポケットに、左右順に手を突っ込んで、やっと目当てのものをみつけたらしかった。
口の中のものをもぐもぐごくんと飲み込んで、ポケットから出したものをサンジに差し出す。
「よし、このキャプテンウソップ様が、一年良い子にしていたサンジくんにプレゼントをやろう」
「何でそんなに偉そうなんだよ」
ぽす、とサンジの手に落とされたのは、銀色のライターだった。
ふたの付いたジッポタイプのもので、羽を広げた鳥のマークが入ったブランド物。
しかし。
「…これさ、お前が使い込んでた奴だろ」
「あ、ばれた」
ウソップが気に入ってよく持ち歩いていたもので、サンジはそれを良く見た記憶がある。
「でもさ、お前これ欲しがってただろ」
確かに、くれと言った記憶はあるけれど。
「だからやるんだぞー。高かったんだぞー」
「だからって使い込んだものを人にプレゼントするか?もっとあるだろ、別のモンが」
「別のって…うおッ!?」
「肉ー!!!」
ウソップが片手に持っていた骨付き肉に、ルフィが飛びついてきたのだった。
間一髪でそれを避け、ウソップが怒鳴る。
「こら、ルフィ!」
「…お前な、まだ肉あんだろうが」
サンジはテーブルの真ん中を指差す。
大きな皿の上には、まだ骨付き肉が残っているのだ。
「だけどよ、これが一番デカかったんだよ」
「だからって、人のもん取るんじゃねー!」
「あ、逃げんなウソップ!!」
また始まりかけた追いかけっこの前に、ふとルフィがサンジを振り返って微笑んだ。
「そうだ、今日ってサンジの誕生日なんだよな?」
「そうじゃなかったら、今日は何のパーティなんだよ」
サンジの突っ込みにルフィはにししと笑って、何かをサンジに放った。
受け取ったそれは小さな箱で、横にやすりのように荒い厚紙がついている。
つまり、それはマッチ。
しかも半裸のおねーちゃんの絵と派手で安っぽいロゴが踊っていたりして、どこかの酒場で配っていたものなんだろうなということは容易に知れた。
「…お前ね、」
と言いかけたときには、もう既にルフィはウソップと取っ組み合いを始めていた。
もう、肉の奪い合いですらなさそうだ。
「・・・」
右手にライター、左手にマッチ。
そして目の前には禁煙キャンディと携帯灰皿。
「…とりあえず、タバコキャラってレッテルは払拭してェな…」
小さなサンジの決意は、チョッパーとゾロも巻き込んで暴れているルフィたちの喧騒で、誰にも届かない。


そして数時間後、酔ってイビキをかき、冷凍マグロよろしく転がっている男共とその周りにこれでもかというほど散らばった汚れた皿にグラス。
食べかす飲みこぼし骨付き肉の残骸その他。
女性陣はとっくに部屋に帰り、この場所を片付けなければいけないのが誰なのか気付いたとき、サンジは。
「…」
シュ、とさっき貰ったばかりのマッチを吸って、いつの間にか銜えていたタバコに火をつけていた。
どうやら、一つ年を取ったくらいで、簡単にキャラを変えるのは難しいらしい。
だけど。
散らかった皿、食べカスの散らばった部屋。好き勝手に転がっていびきをかく仲間たち。
思わず、笑みがこぼれた。
「…ありがとな」
この船のクルーでよかった。
こんな馬鹿騒ぎと、主役に後片付けさせるパーティなんて、きっとこの船くらいだから。
聞こえたはずもなかろうが、ルフィがむにゃ、と何かを呟いて、握りしめた拳を突き上げた。
 
うおお…サン誕オールキャラ書こうとして撃沈。
っていうか遅すぎっていうのは置いておいて。

とりあえずナミさん謹製ケーキと、 普通の酒と間違って買ってきた料理酒プレゼントするゾロと、 使い古しのライタープレゼントするウソが書きたかったのです。

そのうち書きなおしたいなー><
 
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