ベストフレンドがいないときに一人で総帥室に行ったのが運の尽きだった。のだと思う。
部屋の中には、赤いコートの似合わない彼と、その隣に似合わない彼とがいて、部屋に入ってきたトットリを見た瞬間同時ににこりと笑って「ちょうど良かった」と言った。
トットリも微笑み返して「声ぴったり、さすが心友同士だっちゃね」と言い返したら赤コートの方に笑顔のまま眼魔砲をぶっ放された。もう一人の方はとても嬉しそうに微笑んだが、数秒遅れてそっちにも眼魔砲がぶっ放されていたようだった。
そこで気絶したのでその後のことは分からない。
犬猿共同戦線
「はぁーぁあ!!」
無理矢理に声をつけたその吐息もため息と呼べるのだろうか。
トットリはこれ見よがしにだるそうに腕を頭の後ろで組んで声を上げた。
「どげして僕が、よりによってお前と二人っきりで行かなきゃいけないだァか」
とげとげしい声を、前を歩く背中に叩きつける。アラシヤマは振り向かずに小刀を振って、足元の植物を切り開く。
「しゃアないでっしゃろ。コージはんもミヤギはんもおらんのどすから」
「なして出かけてるの」
「コージはんは別任務、ミヤギはんは…知っとるでしょ」
「風邪でお休みだっちゃわいな」
「そうどす」
一緒に休みを取ってしまえば良かったのだ。そうすればこんな密林の中で、こんな根暗と一緒にいなくて済むのに。
ミヤギくんの抜ける穴は僕が塞ぐっちゃ!と言った今日の朝の自分を殴ってやりたい。
トットリはうっそうと茂る木々の間から、憎いほど青い空を見上げた。
任務、である。
国境近くのとある森林の辺りに、武装している者たちが最近多く見られると言うので、その偵察に行って来いということだった。
本格的な戦闘になることは無いだろうというのがシンタローの読みである。
だからこその二人きりの任務。
本当はアラシヤマが一人で行く予定だったのが、「ちょうど良く」トットリが総帥室に顔を出したため、目は一つでも多いほうがいいという事。
それにトットリは忍者、偵察任務はお手の物、なのである。
しかし。
「…目の数の問題なら、アラシヤマが前髪上げればいいだけのことっちゃわいな」
「何か言いはりました?」
アラシヤマが右肩越しに振り向く。長い前髪に隠れた目がトットリを捕らえた。
「何でもないっちゃー」
わざとらしくそっぽを向いたトットリを少し無言で見つめた後、アラシヤマは何も言わないまま前に向き直る。
また小刀で足元の植物を切り開く作業に戻ったその背中に、トットリは少し苛立ちを覚えた。
こんなにこれ見よがしにしても、無視するのか、こいつは。
「あーあ、つまんないっちゃ。シンタローが来てくれたら良かったっちゃなあ」
「あの忙しいシンタローはんに、そういうこと言いまっか?」
言われなくても分かっている。彼が忙しい故の自分たちの出番で、一番そのことを気にしているのはシンタロー自身だ。
「…あーあ!」
わかっているからこそ、口をつくのは八つ当たり。
「それでも、やっぱアラシヤマと二人っきりなんて、僕、嫌だわいなあ」
「…」
返事はないと思った。
だけど、ちょうど振り上げていた小刀を振り下ろした後、アラシヤマは口を開いた。
「…別に、あんさんがわてのこと嫌うてても構いまへんけど」
根暗の言い訳か、とトットリは思う。
「…わて、あん人からの頼みごと、失敗したくあらしまへんのや」
不覚にも、トットリは言葉を失う。
「そんなにわてが嫌いで一緒に行きとうないなら、帰ってもろて構いまへんえ。足の引っ張り合いで任務失敗なんて言うた日にゃ、あん人に本当に嫌われてまいます」
あのお人はほんに仲間のこと大事に思うてますよって、とアラシヤマは言った。
「シンタローが、お前のことも仲間として見てるって言いたいんだァか?」
思わず吐き出した言葉は、自分でも嫌になるくらい、人を傷つける言葉だった。
アラシヤマは、何も感情の無い眼でトットリを見つめていた。
トットリが荒げた息を整えるのを待ってから、そっと口を開く。
「…そうでなきゃ、『シンタローはんのお仲間のトットリはん』と同じ任務には行かせてもらえまへんやろな」
(………何だっちゃ、これ)
また歩みを始めたアラシヤマの後ろで、トットリは立ち尽くしていた。
(これじゃ、僕が悪い奴みたいだがや)
確かに八つ当たりであったことは自覚していた。そして同時に、自分が悪いのだと言うことも。
アラシヤマが、シンタローのいない所であんなに長い台詞を喋るのを初めて聞いた。その声に本気の怒りがにじんでいるのも、初めて聞いた。
それは即ち、彼の譲れないものを、自分が傷つけてしまったと言うことだ。
謝るべきなのだろう、とは思う。
(…ミヤギくんやったら、こういう時どうするだァか)
ミヤギくん、とトットリは今は隣にいない大事な相手の名を呟く。
数度深呼吸。
その名を呟いて深呼吸するだけで、世界は変わる気がした。
(よし)
心の中で気合を入れて、トットリは、先に行ってしまったアラシヤマの背中を追いかけた。
「とーッ!!」
「あ痛…、ごふゥーッ!?」
「あ…」
「ギャース!!」
「…」
振り向かせようとして背中に軽く蹴りを入れたら、ついでに下駄が飛んでアラシヤマの後頭部を直撃、さらに下駄は天変地異の術用のものだったので、転がった表に書かれたとおり雷が、彼の脳天に落ちた。
「うう…いきなり酷いどす…」
ぷすぷすと煙を上げながら涙声でアラシヤマが呟く。
慌ててトットリは駆け寄り、その枕元にしゃがみこむ。
「大丈夫!傷は浅いっちゃ!」
「元凶が、ようそんな軽口叩けますなァ…」
「…ご、ごめんだっちゃ?」
「何で疑問系なんどすの…」
よろよろと起き上がり、アラシヤマはトットリに背を向ける。そして胸元からとある物を取り出し、
「…ほんと、人間はやっぱ怖いどすなァ、な、トージくん」
「うわ、コウモリいなくなったら次は人形だっちゃか」
「何言うてますの!わてとトージくんは友達どすえ!」
どうみてもデッサン人形以外の何者でもない『友達』を抱きしめて、アラシヤマが声を上げる。
その眼が本気であるのを見て取り、トットリはため息をついた。
「あー…僕、やっぱお前苦手っちゃわいな」
「言うてませ!わてはなァんも気にしまへんえ!」
「だけど…」
トットリは、少し視線を反らした。
「…僕だって、シンタローに任務成功の報告したいっちゃわいな」
「…?」
「だから、…まあ、今日一日くらいは…、…お前のこと、仲間って思ってもいいっちゃ」
「トットリはん…」
顔をそらしたまま手を差し出したら、おおきに、と言ってアラシアヤマはそれに掴まって立ち上がった。
服をはたいているのか、ぱたぱたという音が聞こえる。
「…それじゃ、行きまひょか」
「…おう」
「ちゃんと成功報告書作って、シンタローはんを喜ばせてあげましょ」
「おう!」
その時振り返って見たアラシヤマは微笑んでいて、何だかちょっと、本当に彼のことが、好きになれそうな気がした。
「それにしても驚きましたわァ」
「何がだっちゃ?」
「いや、トットリはんもわてと友達になってくれはるとは…」
「言ってないっちゃ!そんなことは一言も言ってないっちゃ!!」
「でもわてはシンタローはん一筋ですよって、申し訳ありまへんけど、心友の座は諦めておくれやすゥ」
「ぼ、僕だってミヤギくん一筋だがや!」
そんな騒がしい二人組みに偵察など勤まるはずもなく。
短い戦闘の末に怪しい武装集団は追っ払ったものの、相手の素性など詳しいことは分からず、結局二人は、シンタローのMAX眼魔砲を食らうこととなったのであった。
トットリ :ミヤギ>仲間>任務
アラシヤマ:シンタロー>任務>仲間
トットリがアラシヤマに一方的につっかかって、でも仲間としては認めてる、みたいな。そんな関係。
だといいな!
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