「ということでぇ、今日は皆に実験に協力してもらいまーす!」
嬉しそうなグンマと対照的に、ガンマ団きっての伊達衆たちはどんよりとしていた。
「…一体何なんだっちゃ?」
「オラに聞かねェでけれ」
ひそひそ声で喋る彼らには目もくれず、グンマは、じゃーん、という効果音声と共に何かを差し出した。
「皆には、これを飲んでもらいまーす!」
差し出されたのは、非常にファンシーなマグカップ。
四人に配られたそれらには、半ばまで薄い紫の液体が入っている。
「…何ですの、これ?」
「飲む前に教えちゃったらつまんないでしょ?」
楽しそうな無垢の笑顔のまま、グンマが答える。
「ほれじゃけェ、なんだかわからんもん飲むんは…」
「大丈夫だってばぁ、身体的には何にも影響ないから」
お願いだよ、君たちじゃなきゃ意味が無いんだ、と20代中盤のくせに幼い目で見つめられ、最初に折れたのはミヤギだった。
「…しょうがないっぺ!飲んでやるかァ」
「ミヤギくんが飲むなら僕も!」
「付き合いじゃけェ、わしも飲んじゃろ」
「あ、じゃあわては」
「…逃げたらシンちゃんに言いつけるよ」
一人席を立とうとするアラシヤマに、ぽつりとグンマの呟き。
いそいそと彼も椅子に戻り、そして4人揃ってファンシーカップを手に取り。
「…乾杯!」
やけくそな音頭と共に、一気にあおったのだった。
彼等からそれを取ったら何が残りますか?
「甘ッ!!超甘ッ!!!」
「苦いよりは甘い方がいいかと思ってー」
「そりゃ苦いより甘い方がいいけど、この甘さはやりすぎだろ!何入れたんだよ!」
「えーと…?お砂糖とー、蜂蜜とー、果物とー、あ、色はブドウの色だよー」
グンマが指折り数える横で、ツッコミ疲れたミヤギは、はぁ、とため息をついた。
「っていうか、何なんだよ、この薬は」
「俺たち、何にも異常はないぞー?」
腕をひっくり返したり、胸元を覗いたりして体の無事を確かめていたコージが続く。
「一体、何の効果の薬……ん?どうした、トットリ?」
その向こうで変な顔をしているトットリに気付き、声を掛ける。
トットリは眉をひそめ、笑おうとして失敗しながらミヤギを指差す。
「ミ、ミヤギくん…なんか、喋り方変じゃない?」
「お前こそ何か変だぜ。いつもの『だっちゃわいや』は…あれ?」
「ミヤギくんこそ、『だっぺ』は…」
そして互いに互いを指差し、声を上げた。
「「標準語になってるーーー!!!」」
「つまりね、喋り方を標準語にする薬だったんだよ。要はさ」
指を一本立ててグンマが説明する。
「ここにはいろんな所から来た人が居るでしょ?当然、方言だと伝わりくいことがあるのさ」
それは自分たちが一番良く分かっている、と伊達衆4人は思った。
「だからね、飲むだけでほらこの通り!喋り方が勝手に矯正されちゃう薬を作ってみました!」
すごいでしょー?と微笑むグンマの前で、4人は顔を見合わせる。
「な、何か変な感じだね、こういう喋り方ってさ」
「個性が消える気がするよなァ」
トットリの台詞に、コージが頷き、後ろを指差す。
「ミヤギなんて『イケメンなのに田舎モノ』のキャラが生かせなくなるし」
「失敬な!俺には『生き字引きの筆使い』という個性だってあるんだぜ!」
「ミ、ミヤギくんの一人称がオラじゃなくて俺になってる!」
「そんな所まで矯正されるのか!」
「しかも何かちょっと喋り方が馬鹿っぽい!だぜって!」
「う、うるさいんだぜ!!」
「…でも、確かに地方の言葉は、このような所では不便ですからね」
ぎゃーぎゃーと三人が騒ぐ横で、一人の静かな声。三人は驚いて振り返る。
「こうして標準語になれば、意思疎通も楽になるでしょう…ん?どうしました?」
「…誰だ、お前」
「いや…誰って、私アラシヤマですけれど」
「敬語かよ!!」
「しかも一人称が私だよ!!」
「もう誰だかわからねェだろ!!」
「…酷い言われようですねぇ…」
いいですどうせ私なんて、とアラシヤマは隅の方で膝を抱えていることにした。
「でもさ、ちょっと面白いよね」
頭の後ろで頭を組んで、トットリが笑う。
「いつもと同じ顔で同じこと言ってるだけなのに、喋り方が変わるだけでこんなに違うんだねー」
「俺は、何かこう、何か詰まる感じがするけどなァ」
顎をかきながらコージ。何か納得できないような顔で、首をかしげている。
「そうか?俺はこのまんまでもいいけどな!」
その向こうで、晴れやかな笑顔でミヤギが言う。
「これでもう、イケメンだけど田舎者とか言われたりしないぜッ!」
「阿呆は変わりませんけどね」
「黙れ新感覚敬語キャラ!」
「えええ何ですかそれ!?」
そんな風に騒がしくしていたとき、だった。
バタン、と乱暴な音を立てて、部屋の扉が開く。
「おうグンマ!うちの部下全員連れてきやがってこのヤロー!」
「シンちゃん!」
赤いコートを靡かせながら入ってきた闖入者に、グンマが満面の笑顔で駆け寄る。
「ごめんねぇ、でもどーしても試したいことがあったんだー」
「だったら俺に一言断ってから連れてけよ」
飛びつこうとするグンマを適当にあしらいながら、シンタローはそこに揃っている4人を順に見る。
そして、何か言うべく口を開こうとした瞬間。
「私を探しに来てくれたんですねええええ、シンタローさぁああんッ♥!!」
「!?」
さすが私の心友ですうううと叫びながら駆け寄ってきたその姿に、とりあえず眼魔砲を叩きつける。
「…今、とっても気持ち悪いモノが見えた気がするがきっと気のせいだな」
「ううん、気のせいじゃないよ、シンちゃん。あそこで焦げて伸びてるよ」
目の据わっているシンタローに、グンマの無邪気なツッコミが入った。
「…これは、どういうことだ?」
ミヤギ!といきなり声を掛けられ、ミヤギは驚いて体をはねさせる。
「え、ええっと、アラシヤマ…っていうか、俺たちは…」
「お・れ!?」
「え?シンちゃんカフェオレ飲みたいの?」
「…グンマ、お前は黙ってろ」
いそいそとコーヒーメイカーの用意を始めたグンマを無視し、シンタローはミヤギに向き直る。
「確か、お前の一人称ってオラだったよなァ田舎者?」
「ああッ!シンタローまで俺のことを田舎者って言うんだな!」
「酷いよシンタロー!確かにミヤギくんは田舎者だけど格好いいのに!!」
「トットリ…それはフォローになってねェぞ…」
泣き崩れたミヤギと、それを励まそうとするトットリと、呆れたようなコージ。
見慣れたはずなのに、やけに違和感を覚えるその光景。
「……グンマ」
「なぁに?シンちゃんッ」
「………説明してくれる・な?」
その時の笑顔は忘れられないよ、と後にグンマは語る。
「…で?その薬の効果を消すにはどうすりゃいいんだ?」
グンマを正座させ、事のあらましを聞き終わった後、シンタローはそう問うた。
「わかんない」
「あァ!?」
「だって、完成したばっかだもん」
解除の薬の方はまだ作ってないんだ、とグンマ。
「だったら今すぐ作れッ!」
「えー?」
「気持ち悪ィんだよ!アレらが!」
と、シンタローは後ろでやはり正座をしている4人を指差す。
「でもさ、きっといつもの喋り方より、スムーズに会話が出来るよ?」
「そんなことが問題じゃねェんだよ」
シンタローは、腕を組んだ。諭すように続ける。
「スムーズな会話とか、そんなんどーでもいいんだよ」
「…?」
「『だっぺ』と『だっちゃわいな』と『じゃけんのう』と…まあ、『どすえ』もだ」
「…うん」
「そーゆーとこも、全部ひっくるめて、アイツ等はアイツ等なんだよ」
「…うん」
なんとなく、分かる気もした。
先ほどから騒がしくしている彼らの間には、何だか妙にぎこちない感じが漂っていて。
何だか、違う気がしたのだ。
「わかるだろ?…それに」
「うん…」
「ないと、どれが誰だか分かんねえだろ」
「そこかよ!」
「え、シンタロー僕たちのこと見分けられてないの!?」
「語尾か!?お前の耳にはちょっと個性的な語尾にしか聞こえてなかったのか!?」
「私も入れてもらえて幸せですー」
「さ、さっきまでの感動に繋がりそうな話はなんだったの?」
「…うっせーなー、ちょっとした冗談だっての!」
顔を背けてシンタローが不機嫌そうに呟く。小さく舌打ちが聞こえた
不信感を込めて、グンマを含めた4人は半目でその背を睨むが、彼は絶対に振り向かなかった。
残りの1人は、嬉しそうな視線を注いでいたが、やっぱり振り向くことは無かった。
ちなみに。
一晩経ったらその効果も消えてしまったようで、ミヤギはベストフレンドの「ミヤギくん、早く起きるっちゃ!」という一言で目を覚ました。
「はぁ…また田舎者って馬鹿にされる日々が始まったっぺ…」
「大丈夫だっちゃ!ミヤギくんは格好いいし、生き字引の筆だってあるっちゃ!」
「…そうだべな!オラには顔があるべな!」
「さすがミヤギくん!立ち直りが早いっちゃね!」
でも、やっぱりちょっと惜しかったな、とミヤギは思う。
(今度、ちょっとだけ分けてもらおう)
任務で敵地に潜り込む時なんかだったら便利なんだろうなあとか頭のいい事を、似合わなく考えた。
標準語話。
なんか多分、世の中では使い古されてるんだろーなーとは思います。思います…けど!
ミヤギはただのイケメン、コージもただの兄ちゃん、トットリはちょっとかわいい感じに、アラシヤマは近寄りがたい雰囲気に。
方言なかったら、もう誰が誰だかわかんないですね…orz漫画とか描ければ良かったのになあ。
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