うるさい。うるさい。うるさい。
日々アンダンテ
「シンタローはぁん!」
声はいつだって何も辛いことなんかなさそうな能天気な幸せそうな音。
「待っておくれやすぅ!」
たったっと駆け寄ってくる軽い足音に合わせて振り返る。
腕を、地面と水平に音がするほど思い切り振りながら。
「ぶゴフッ!!」
それはちょうど計算どおり、駆け寄ってきたアラシヤマの顔面にブチ当たる。
足が慣性の法則に前にひっぱられながら、思い切り仰向けに倒れ、後頭部が地面とぶつかる鈍い音が響いた。
それを最後まで見届けることもせず、シンタローは再び歩き出す。
「…もぉ、シンタローはんのいけずぅ」
その即座の復活も想像の範囲内。
鼻血なんか垂らしていたようだが、数度拭くと落ち着いたようだった。
今度は軽く走ってきて、少し後ろに並ぶようにスピードを合わせてくる。
「シンタローは」
「黙ってろ」
一言で、ぴたりと黙る。
しかし、無言のまま笑顔で、同じ距離を保ったままついてくる。
「…」
「…」
「…」
「…」
「…どこまで着いて来んだヨ」
「シンタローはんの行くとこまでどす」
「俺は家に帰んだよ」
「やったら、わてもシンタローはんのおうち帰りますわ」
「来んじゃねーよ、っていうか帰るって何だよ」
「やって、あんさんとわては…し、心ゆ」
「寝言は寝て言え」
満面の笑顔に至近距離から眼魔砲を叩きつけると、さすがに動かなくなった。
またシンタローは、何事もなかったかのように歩き出す。
途中で振り返ると、焦げたように煙を上げる塊は動くそぶりはなかった。
どうやら完全に失神しているようだった。
(シンタローはん)
うるさい。
(シンタローはん)
うるさい。うるさい。
耳鳴りのように呼び続ける声。
残像のようにちらつく笑顔。
何故彼は、こんなにまで自分についてくるのだろうか。
殴っても、眼魔砲をぶっ放しても懲りずに、笑顔で。
憎くは思わないのだろうか、自分の思いに振り向かないことを。
…そんなにも、誰かにとって、自分の発した言葉が意味を持つとは思わなかった。
足を止める。
そのまましばらく身動きせずに、立ち止まっていた。
夕日が段々暮れていく。
世界がオレンジに染まる。
風とそれにそよぐ草ずれの音だけしかしない静かな世界に、ふと何かを引きずるような音。
「痛た…ハァ、今日も………あれ?」
少しかすれた泣き声は、最後に疑問符をつけて途切れた。
「…遅せーぞ、俺を待たせんじゃねえ」
そのまま何も言わずに歩き出した。
背後で戸惑った感情と、驚いた感情と、嬉しそうな感情が同時に弾ける気配がした。
どうか夕日が、逆行で俺の表情を消してくれていますように。
何度名を呼ばれても振り返ってやったりするもんか。
アイツのためにこんな顔浮かべてるとこなんか、知られたくないから。
俺様でツンデレ。
ちょっと甘くしたら気持ち悪かった。
アンダンテは「歩くような速さで」です、か?(聞くな)
戻る