はぐれ剣士
「行くのか?」
そろそろ太陽は傾き、昼とは違った眩しさの中、ツイハークは少し高いところにある頭に話しかけた。
問いかけの言葉に、ムワリムは頷く。
「ああ」
「・・・そうか」
ツイハークがちらりと後ろを振り返った。
少し離れた所にある大きめの天幕の周りは、今大騒ぎである。
デインが、解放された。それも、俺たちの手に依ってだ。悲願成就せり!
男たちは馬鹿みたいに酒を飲み、女たちは馬鹿みたいに踊り、人々は喜びで溢れていた。
そこから少し離れた静けさの中に、二人はいる。
「お前は、あそこに行かないのか?」
ムワリムが聞く。
「酒、弱いんだ」
「そうか」
ツイハークは肩をすくめて笑った。
「だけど、君が行ったら、あそこに混ざることにするよ」
一人じゃ寂しいから、と、彼は笑う。
「一緒に行くか?」
「そうしたいのはやまやまなんだが・・・まだ、・・・ほら、さ」
人々は自由になった。
だが、自由には自由なりの忙しさと言うものがある。
ツイハークは、今はまだ、デイン解放軍に雇われた傭兵なのだ。
まだ、やらなければいけないことはたくさんあるから。
「・・・そうか」
「また、会えるかな?」
段々と濃くなっていくオレンジの光。
「ああ。2度目があった。3度目も・・・きっと」
「俺も、そう、祈っている」
沈む前に、ここを発たなければ。
「・・・そろそろ行くよ。坊ちゃんが待っている」
「ああ」
じゃあ、と手を上げかけるムワリムを制し、ツイハークが伸び上がってその頬にキスをした。
ぎゅっと抱きついて、囁く。
「君を守れなくて・・・ごめん」
戦場でも、そうでなくても向けられるのは、いつも嫌悪の視線。
もう、そんなものには慣れていた。汚い言葉も暴力でさえも、辛いとは思わなかった。
それは。その理由は――
ムワリムは、その背に腕を回し、そっと叩く。
「大丈夫。私には坊ちゃんとお前がいるから」
「・・・こんな時くらい、俺を先にしてくれればいいのに」
「ああ・・・すまなかった」
そんな軽口を叩きながら、そんな日は来ないだろうな、とツイハークは考えた。
唇が重なって、離れる。
「・・・じゃあ」
「ああ。気をつけて」
名残惜しがるように最後まで指先が触れ、そしてとうとう離れた。
段々と濃くなっていくオレンジの中を、ムワリムが黒い影になるまで、ずっと見つめ続けた。
坂を下りきったところで、その黒い影に、小さいのと羽が生えたの、2つの影が近づいていく。
そして黒い影は3つになり、坂と天幕と木々に隠れて見えなくなった。
それを見届け、ツイハークは微笑む。
願わくは、彼らの先が明るい道でありますようにと。
そして、できればその先が、自分の先と重なっていますように。

そして、彼はベオクの群れには戻らず、一人で暗い天幕へと入って行った。
 

短めにムワツイ。
暁1章終わり辺りで宜しくです。
ムワリム…その後出てくるの遅いよ…orz

ムワリムはいつでも何があっても坊ちゃん一番で、
ツイハもそれを承知で好きだといいなぁとか。

読んでくださってありがとうございました!

 
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