キミと私と
「さて、どうしたものか・・・」
斗貴子は悩んでいた。
カレンダーをちらりと見ると、そこには確かに、今日の日付に赤丸がしてあるのが見える。
そうだ、ちゃんと覚えていたはずなのに。
カレンダーを買った日に、しっかり赤丸をつけたのだ。
その下に、しっかり「誕生日・カズキ」と書いてさえあるのに。
最後にハートマークをつけようかと悩んだことさえ覚えているのに。
「何で、プレゼントを買うのを忘れてしまったんだ・・・」
ため息をついても、過ぎた時は戻らず。
「・・・今から買いに行っても間に合うだろうか・・・」
そうだ、良く考えれば、まだ半日以上「今日」は残っている。
財布を握り締め、斗貴子は立ち上がった。


その頃カズキは、両手に荷物を抱えてよたよたと寄宿舎へと歩いていた。
「それにしても、すごい荷物だね〜」
「ゴメンな、まひろ。運ぶの手伝わせちゃって」
「ううん!大丈夫だよ」
二人が持っているのは、全てカズキへの誕生日プレゼントである。
「お兄ちゃん、これ中見ていい?」
「おう!」
ごそごそと探れば、包みを解かれた色々なものが出てくる。
「ハンカチにマフラー、あ、このキーホルダーかわいいー!」
「えっと、確かそれは桜花センパイがくれたんだったっけ」
「あ、こっちは本かな?」
「ってそれは駄目ー!!」
まひろが取り出した、何の変哲もない紙袋をカズキは慌てて取り上げる。
「えー?何でーー??」
「駄目なものは駄目なの!!」
なぜなら、それは岡倉からのプレゼントだから。
中身は推して知るべし。
しばらくぶーぶー言っていたまひろだが、ふいにクスリと笑う。
「どうした、まひろ?」
「ううん。別に」
「何だよー」
「お兄ちゃんが、私のお兄ちゃんでよかったと思って」
柔らかく微笑む妹に、思わずつられてカズキも微笑を返す。


部屋を出た斗貴子は、ちょっと離れた所からその二人を見つけた。
(マズいな・・・何でカズキがあんなところに)
カズキは寄宿舎の部屋に帰る途中なのだから、当たり前であるが。
今の斗貴子には、誕生日プレゼントを買い忘れていたという負い目があるから、非常にマズい状況に思えてしまう。
声をかけるべきか、別ルートを探してここを抜け出すか考えている、その時だった。
カズキたちの頭上に不審な影を見つけ、斗貴子は息を呑む。
(アレは・・・!)


「ハッピーバースディ、武藤!」
「うわぁ!?」
急にカズキたちの目の前に現れたのは、オシャレな一張羅に身を包んだパピヨンである。
背中の蝶の羽・・・ニアデスハピネスを消して地面に降りると、すちゃっと片手をあげた。
「ちょ・・・じゃなくて、パピヨンか。びっくりした〜」
「久しぶりだな、武藤」
「うん、久しぶり」
横であわわわわと慌てふためくまひろをよそに、世間話よろしく会話を続ける二人。
「でもパピヨン、急にどうしたんだ?」
「む、今日がお前の誕生日だと聞いてな」
例の場所からにゅーっと取り出したのは、色違いのパピヨンマスク。
「プレゼントだ。これをやろう」
「わあ、ありがとう!」
「そんなもの貰って喜ぶなー!!!」
「あれ、斗貴子さん?」
(しまったああああ)
自分のツッコミ体質に非常に落ち込む斗貴子であった。

が、ここは開き直るしかない。
「カズキ、そんなものを貰って喜ぶな!」
「このマスクを『そんなもの』とは失敬な」
「そうだよ。マスクだけならオシャレだと思うんだけどなぁ」
「お兄ちゃんオシャレ間違ってるから!」
いつのまにかまひろも、慌てるモードから普通の状態に戻っている。
斗貴子の登場で、やっと落ち着いたらしい。
なんだか変な方に流れていく会話の流れに、斗貴子は頭を抱える。
「だいたい、そんな所から取り出したものを人に渡すな」
「そんなものとかそんな所とか、一々失礼だねぇ」
むっとした様子のパピヨン。
「そんな事言う君は、一体どんなものをプレゼントしたんだい?」
「うっ・・・」
痛いところをつかれ、斗貴子が半歩引く。
その様子に何かを感じたのか、パピヨンはにやりと笑った。
「もしかして、何もプレゼントして、ない?」
「え、斗貴子さん、お兄ちゃんの誕生日を祝ってくれないの?」
まひろにまで非難の声を上げられ、斗貴子の中で何かがきれた。
「・・・い、今プレゼントを渡そうと思っていたところだ!」
「両手には何も持ってない気がするけど?」
「うるさい!私からのプレゼントは・・・」
バッと振り向いてカズキの肩を掴む。
「あ」
「こ、これだ!」
カズキの肩を掴んで、伸び上がる。
夕焼けに伸びる影が、重なった。
一瞬の沈黙。

それを破ったのは、まひろの歓声だった。
「キャー!見ちゃったあああvv」
「ふむ。おめでとうと言うべきかな、武藤」
「斗貴子さん・・・」
「な、何も言うな・・・」
夕焼けを受けてさらに赤面する斗貴子を、カズキはぎゅっと抱きしめた。
「ありがとう、斗貴子さん」
「カ、カズキ・・・」
「斗貴子さんから何か貰えるって、実は全然期待してなかったんだけど」
「(・・・)」
「俺、すごく嬉しい」
ありがとう、と耳元で囁かれ、斗貴子はぎゅっと目を閉じた。
カズキの首に手を回し、抱きしめる。
「・・・喜んでもらえたなら、何よりだ」

「さて、武藤妹。お邪魔虫は去ることにしようか」
「パピヨンさん、行っちゃうの?」
「あの二人の世界に飛び込む勇気はあるかい?」
見詰め合ったまま、一言も発しない二人の姿。
「・・・勇気とか、そういうんじゃないと思うな」
「ほう?」
「幸せになって欲しいなって、ただそれだけ」
まひろとパピヨン、珍しい組み合わせの二人は、目を合わせて、笑った。
お互いに大事な人だから、同じように幸せを願う。
二人の去った場所には、カズキと斗貴子が残された。


「斗貴子さん」
「何だ、カズキ?」
「来年も、俺の誕生日、祝ってくれる?」
「言っただろう?カズキ。君と私は」
体を離し、斗貴子は微笑んだ。
「・・・一心同体、なんだからな」
二人の影が、もう一度重なった。
 

カズキンバースデーに1本。
カズトキも大好物です(*´∀`)

本当は3馬鹿とか色々出してワイワイやりたかったけど、
そうすると相当長くなっちゃったのでやめました。
ごめんね六枡(だけ!?)。

読んでくださってありがとうございました!

 
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