サンジは夕飯のシチューの具合を見ている。
おれは手元で制作中の道具を見ている。
ゾロは、そんなおれを見ていた。
いたいいたいいたくない
「…」
「…」
「…」
キッチンは無言。非常にいたたまれない。
せめてルフィかナミでもいれば雰囲気は一気に変わってくれようが、残念ながら前者は甲板で昼寝中、後者は女部屋で海図の整理中。
夕飯前のこの時間、いつもなら昼寝担当はルフィじゃなくてお前だろ、と目の前の顔に言ってやりたい。
大体、お前はおれを見ていて楽しいのかと。
せめて、手元を見ているならわかる。何ができるのかなーとか、そんな好奇心だと思えるから。
でもゾロの眠そうな目は、さっきから何故かじぃっとおれの顔に注がれているのだ。
「…ウソップ」
「う、え、何?」
とか思ってたら、沈黙を破ったのはそのゾロ。
おれはちょっと慌ててしまって、返事を噛んだ。
「それは、何を作ってるんだ」
「それって、これ?」
「ああ」
ゾロが、おれの発明品に興味を持つなんて珍しい。
でもまあ、自分の作ったものに興味を持ってもらえるならやぶさかではないから、おれは胸を張って説明を始める。
「よくぞ聞いてくれました!これは、潜水服だ!」
このホースを繋いで給気をするとか、布と樽を繋ぐのに特殊な接着剤を使っているとか、今作っているこの部分は能力者用に、全身を覆えるようにするためのパーツだとか。
そんなことを、身振り手振り表情豊かに説明してやる。
…が、ゾロはといえば、頷きながら聞いてはいるものの、まったく道具の方を見ようとしない。
おれの顔やら指先やら、なんだかそんな所ばかり見ているのだ。
「…ということだ、わかったか!?」
「つまり、不思議服だな」
「ルフィかよテメェは」
話に割り入って来たのはサンジ。
ゾロの方を向いてそう言ったかと思うと、今度は首を逆方向に回しておれを振り返る。
「オイ長ッ鼻、そのふざけた発明を、おれに使わせるなよ」
「ふざけてなんかねーよ!その証明にほら、お前の分はこの通り」
上半身を覆う樽部分の、その頭部に、ぐるりと渦巻く眉毛を真剣に書き込んで見せたらため息をつかれた。
「…とりあえず、あんまり根詰めんじゃねェぞ」
「おう、ありがとな」
「何か飲むか?」
「いいのか!?じゃあ、おれ茶な!」
「酒」
「誰もマリモにゃ聞いてねェんだよ!」
いつものケンカの始まりのようにサンジがゾロを挑発するけれど、ゾロは乗ってこなかった。
どころか、やっぱり眠そうな目で、おれを見つめ続けている。
非常に、居心地が悪い。
しかし目の前に、ダン、と湯のみが置かれスーツの袖がその視線を遮ったので、おれはほっとした。
「茶」
「ありがとなー、サンジ!」
「それから、おまけだ」
「へ?」
いつもなら、絶対に出てくるはずのない、サンジ曰くレディ用のおやつ。
白い華奢な皿の上に、一口サイズのケーキが乗っている。
「え、何で?」
「何となく。…つーか、テメェが頑張ってるみたいだったからな、サービスだ」
「やったー!ありがとなサンジ!!」
「おれの分は」
「あるわけねェだろクソマリモ」
「マリモはいらねェ」
「んじゃクソだけか?このクソ剣士!」
「ダーツ眉毛」
「カッチーン!?テメェ、人の個性を…」
「やめとけよー、二人とも」
本格的なケンカになる前に、とりあえずは一度釘をさすのがおれの役目。
でも普通はそれじゃあ止まらないから、次に問答無用で殴るのがナミの役目。
しかし、どうやら今日は、普通じゃないらしい。
おれの仲裁に、少しむすっとした顔で、しかしゾロが先に口をつぐんだのだ。
「…」
「…チッ」
苛立ったように、サンジがタバコのフィルターを噛んだ。
どか、とわざと大きな音をたてて、おれの隣に腰掛け、殺せそうな気合のこもった視線をゾロに刺す。
「美味いか、ウソップ」
「あ、ハイ」
そんな視線でこちらも見ずに、そんな話題を振るのはやめてください。
…とも言えず、おれはただひたすらに、一口大のケーキを味わおうと必死になった。
しかし飛び交うのは無言と、決して交わることのない視線で。
「…ごちそうさま。サンジ、超うまかった。ありがとな」
「おう」
「そう言えば洗面所のタオル掛けが壊れてたんだ。どっかのゴム船長のおかげで」
「アイツは、少しは加減って言葉を覚えて欲しいよな」
「だよなァ。でも不便だから、おれ、今から直してくるわ」
「おう」
サンジが片手を挙げたのに片手を挙げ返して、席を立つ。
「今からか」
しかし、遮ったのはゾロの声で。
「え?あ、うん。まだ、夕食までは時間、あるだろ」
まだ、おれを見て。
行ってくる、とおれはもう振り返れなくて、急ぎ足でキッチンを出た。

扉をしめて歩き出す。しかしまた扉の開く音、そしてしまる音。
「ウソップ」
「…」
「ウソップ」
「…何だよ」
ゾロだ。
立ち止まって振り返ったおれの、3歩ほど前の所で立ち止まって、さっきと同じ眠そうな目で、おれを見つめる。
「好きだ」
「ふうん」
「愛してる」
「そっか」
「おれと付き合ってくれないか」
何という急なことで。
おれは苦笑した。
「ごめん。ゾロのことはおれ、大好きだけど。…おれさ、好きなやついるんだよな」
「…」
ゾロは、片眉をあげた。
「おれの、知ってるやつか」
「ルフィとナミも知ってる奴だよ」
そういう限定をつけてやれば、きっとゾロの導く答えは一つだろう。
「あ、名前言えなんて言うなよ!それだけは、恥ずかしいから駄目だ!」
恥ずかしいから?
違う、本当は、知られたくないからだ。
ゾロには。
「そいつはさ、すげェ美人でなー」
そう、アイツは美人だ。
「肌の色が透けるように白くて」
滑らかな肌と、繊細な指先。
「サラッサラの金髪で」
思わず、触れたくなるような。
「…おれの話を、楽しそうに聞いてくれ『た』んだ」
それが過去形になったのは、いつからだったろう?
…それは、おれに向けてくれた笑顔も、おれだけに出してくれたおやつも、おれに優しいアイツの何もかもが、おれに向けられている視線への嫉妬だと気づいた時だ。
「…」
ゾロは、おれを真っ直ぐに見つめている。ずっと変わらない、眠そうな目で。
ごまかせたのか、ごまかせなかったのかはよく分からない。
「…だから、ごめん。おれ、ゾロとは付き合えない」
おれなんかを好きになってくれるのはすげェ嬉しいんだけども、と、これは本心だ。
「…そうか」
ああ、おれは何でゾロを一番好きにならなかったんだろう?
もしそうだったなら、こんなに苦しい思いをしないですんだのに。
ゾロに、こんな顔をさせることもしないで済んだのに。
でもそしたら、アイツが悲しくて苦しい顔をしちゃうかな。それは辛い。
でもその時おれはゾロを愛しているんだったら、アイツが悲しそうなのを辛いなんて、思わないのかな?
ああもう、思考がぐちゃぐちゃだ。何もわからない。
「…悪ィな」
「いや、おれこそ、急にこんな話しちまって悪かったな」
「いやいや、嬉しかったぜ。何せ、天下の海賊狩り様に愛されちまったんだ」
「誇りに思えよ」
「わかった」
うまく笑えただろうか。
「…ありがとな」
ゾロが苦笑に似た表情を浮かべていたから、多分おれも、同じような顔をしていたんだと思う。

夕食後、ルフィに遊びに出ようと誘われ、おうと答えて駈け出した。
その前に見た一瞬、いつもなら既に昼寝―夕寝?―にかかっているはずのゾロがまだテーブルについていて、そのゾロにちらりとサンジが視線をやったのを見たから。
ああ、きっと大丈夫なんだな、とおれは思った。
ゾロだって、きっと気づくはずだ。アイツは、本当に素晴らしくて本当に優しい奴なんだって。
幸せになってくれればいい。
おれの、大好きな人が。


だからおれはそのとびらをもうひらかないようにきちんとしめて、
 
(君の隣に)いたいいたいいたくない。
(君の笑顔が)いたいいたいいたくない。

ゾロ→ウソ→サン→ゾロ。
被害者はウソ…と見せかけたゾロで。

何も知らないサンジが非常に憎いぜ(それを書いたのはお前だ)

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(20100223:追記)
狙撃手に対して暗いオチとなってしまったため、ウソ救済話を二つご用意しました。
サンジオチとゾロオチで。
もしよろしければ、合わせてどうぞ。。。
 →→ side S(実は、のおはなし)
 →→ side Z(その数日後(サンナミ含有))
 
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