※サン誕「アシタのケツイ」「おめでとうの日!」と、まさかの繋がり。







―欲しいものは、お前だよ。

とうとう言ってしまった、という高揚感は既に冷え切ってしまっている。
当然だ、あれからもう、一ヶ月経ってしまったのだから。
言葉のない返答を返され、全ては既に終わってしまった。
あの気持ちはもう、手の中にある、この鉄のライターと同じだけの冷たさになってしまった。
アノヒのケツイ
サンジは、元々ライターよりもマッチの方が好きだった。
擦るときの感覚や燃える火の色、その暖かさなんかが、マッチの方が直に伝わってくると思うのだ。
だから、ルフィから誕生日に貰ったマッチは既に使い切り、自分で買ったマッチを今は使っている。
常にスーツの胸ポケットにそれを入れ、いつでもタバコを吸えるようにしているのだ。
なので。
「サンジ、ちょっといいか?」
「おう、チョッパーか」
朝食の片付けをしていたサンジは、テーブルのほうからチョッパーに呼ばれて振り向いた。
「アルコールランプに火をつけてェんだ。マッチ一本くれねェか?」
「そのくらい、お安いごようさ」
気軽に引き受け、いつものように胸ポケットに手を突っ込む。
そのまま、手に触れる四角い箱をつまみ上げ…
「…ん?」
…ようとしたものの、指先には何も触れなかった。
「あれ、ちょっと待ってくれよ、チョッパー」
「うん」
スーツの、他のポケットも叩いてみる。ない。
「あれ、おかしいな…」
「どうしたんだ?」
「や、マッチがな…」
と、叩いたズボンの左ポケットに固い感触。しかし取り出してみると、それは。
「あ、サンジそれ、誕生日にウソップから貰った奴だな!」
「ああ…」
渋い顔をして、サンジはそれを眺める。
シルバーの、鳥が羽を広げたマークの刻印の入ったブランドのライター。
あいつにしては、こんな高いものを良く買った、と思う。
「・・・」
まったく、こんなものをくれなくても良かったのだ。後ろめたいなら。
これをあいつがくれたのは、前日のサンジの告白に対する、彼らしいやんわりとした断りなのだろう。
だからこその、彼お気に入りのお高いおライター、サンジが一度欲しがったこともあるそれが、プレゼントなのだ。
「?どうした、サンジ?」
「あ、ああ。いや。…で、どこに火ィつけりゃいいんだ?」
「これだよ」
チョッパーの茶色いひづめが指し示すアルコールランプの芯に、ライターで火をつけようと、した、その時。
「わ」
カチン、と開いたライターのふたから、何かが転がりだした。
驚いて引っ込められたチョッパーの足の下に、それは落ちる。
「悪ィ、何かはさまってたか」
「うん…大丈夫。紙か。買い物メモかなんかか?」
チョッパーが拾い上げたそれをサンジは受け取った。
丸まった小さな紙。余り見覚えはなかったが、ポケットに一緒に入れていた何かのメモが挟まってしまったのだろうか。
何気なく、くしゃくしゃのそれを広げる。
「・・・」
そして。
「?…何だよ、またサンジ固まっちゃった」
そこには。
「サンジー。おーい、火ィ貸して欲しいんだけど」
―文字が。
「…悪ィ」
「え?」
「ちょっと、そこまで」
「あ、サンジ!?」
とまどうチョッパーなどもう眼中にないように、サンジは駆け出した。
狭い船の上を、見張り台の上まで。


「うおー!?何だ、敵襲か!?」
乱暴にはしごを上る音に怯え、咄嗟に毛布を頭からかぶって柱の後ろに隠れたウソップは、鬼のごとき形相で睨みつけてくるサンジと目が合った。
「…ぎゃー!敵襲!」
「誰が敵だ!」
そのままサンジはダン、と見張り台に入ってきた。
しゃがみこんだ体勢だと上から見下ろされる形になり、前髪と自身の頭で影を作った視線は、非常に怖い。
「え、あれ、おれ何かした?」
「身に覚えはねェか」
「えと…あ、ごめんなさい。一昨日タバスコ一本無駄にしました。新しい星作ろうとして失敗しました」
「テメェか!男部屋の前に赤黒い染みつけたのは!」
「あれ?それじゃない?じゃあ先週、ルフィと片栗粉X作ろうかって話してたこと?」
「テメェ…そんなくだらねェことに食材使ったら月までぶっ飛ばすからな…」
「何だよ、単なる馬鹿話じゃねェか!」
でも、それでもねェのか、とウソップは続けて首をかしげた。
「じゃあ、何だ?他におれ、そんなにお前を怒らせるようなことした覚えがねェ」
「本当にか?」
「だって、他にゃ食い物粗末にするようなこともしてねェし、ナミやロビンに何かした記憶もねェ」
「…お前な。おれが怒るのは、食い物とレディのことだけか?」
「じゃねェの?」
「……まずな、おれは怒ってるわけじゃねェし」
「ありゃ?そうなの?」
さらに首をかしげるウソップを前に、サンジは大きくため息をついて、どっかりと見張り台に座り込んだ。
こうして体勢を低くしてしまうと、見張り台の壁に囲まれて、まるで秘密基地みたいだとサンジは思った。
「…先月のことだ」
「先月?」
ウソップは、まるで何も思いつかないらしい。
毛布を頭に載せたまま、首をかしげる。
サンジはそんなウソップをしばらく真っ直ぐ見つめた後、ふいに目を逸らしてポケットに手をやった。
差し出すのは、シルバーのライター。
鳥の刻印のされた、銀色のライターだ。
「あ、それ、…うわ」
何かを思い出したらしいウソップ。
そしてサンジは、キッチンからずっと握り締めていた手をウソップに差し出した。
「―来たぞ」
思わず広げたウソップの手に、くしゃくしゃの紙片が落とされた。
紙片は、手紙だ。

―さっきの話の続き、したいから、明日の夜、見張り台で待ってる。
 あ、これをおれが書いてるのは1日で、お前に渡すのは2日だから、もう今日かな。
 もし、1日にしてくれた話が、嘘じゃないなら、見張り台に来て欲しい。

ウソップは耳まで真っ赤になった。紙片に目を落としたまま、サンジを見ることもしない。
サンジは、ライターで火をつけてタバコをふかした。
紫煙が、ゆれて霧散していく。
ウソップが視線を向けている紙片の上にもそれは広がり、元から雑な、しかし一文字一文字しっかり書かれた紙片の文字をぼやかす。
「何だよ、読んだのかよ…」
やっと放たれたその声は、何だか泣き笑いの声に聞こえた。
「―ちゃんと、諦められたと思ったのに」
やっとサンジを見た顔は困ったような笑顔で、サンジにはそれは、泣いているようにしか見えなかった。
「もういいだろ、こんな…」
「―今日は、2日だろ」
ウソップの言葉を、サンジは遮った。
「1日の話をしに来た」
「1日の話って…サンジ」
「だって、2日に見張り台に来いって書いてあんじゃねェか」
「そりゃァ、3月の、だろ。お前の誕生日だよ」
「3月のだなんてどこにも書いてありゃしねェ。4月の何が悪い。てめェの誕生日もあんだろうが」
開き直ったサンジに、ウソップは呆れてため息をつく。
胡坐をかいて座り込んだまま、柱にもたれて頭の後ろで手を組んだ。
「…わかった、わかったよサンジ。じゃあ、1日の話の続きをしよう」
「おう」
サンジは、吸っていたタバコを灰皿に押し付けた。見張り台には、それが常備されているのだ。
「3月の1日に、お前はおれに、プレゼントのリクエストをしたよな?」
「ああ」
「だから、…お前が、本当に欲しいって思ってたんならお前の誕生日に、『それ』…をやろうと思ってたんだ」
「…ああ」
「だけど、もうお前の誕生日は過ぎちまったからな。もう、やれねェ。残念だったな」
に、とウソップが笑った。
何か企みごとがうまくいった悪ガキの笑顔にも見えたが、それはとても寂しそうにサンジの目には映った。
当然だ。
最初に賭けを始めたのは自分で、先に逃してしまったのも自分なのだから。
欲しいといったのは自分で、なのにそれを受け取る機会を逃してしまった。
その告白に対する答えを、ウソップはどんな思いで出したのだろう?こんな、丸めた紙片に書いて、こっそりと自身のプレゼントに潜ませるような。
きっと、自分はウソップに対して何も期待していなかったのだとサンジは思った。
何かを、彼に対して与えた記憶はない。なのに、欲しいものを押し付けるだけ押し付けて、貰うだけ貰おうとしていたのだ。
何かを与えたと無理やり言い換えるならば、それは選択を与えてしまったのだ。
多分、何よりも厄介な。
だったら。
「…じゃあ、ウソップ」
「ん?」
「お前の誕生日に、おれをやる」
「…おれの誕生日は、昨日なんですけど」
「昨日は、おれをやるなんて真実を一言も言ってねェから嘘さ。エイプリルフールだしな」
「な―何だその屁理屈」
さしもの嘘つきも、唖然とした顔でサンジを眺める。
上から下まで、まるで奇妙な動物を見るかのごとく。
しかし、ふっ、と。
「…何だよ、おれ馬鹿みてェ。あんなに細心の注意払って手紙入れといたのにさ。気付かれたのは一ヵ月後だし」
全身から力を抜いてウソップが口を開いた。
「挙句の果てに、欲しいなんて一言も言ってねェもん、今押し付けられそうになってるし」
「やっぱり、要らねェか」
だろうな、とサンジは苦笑した。
「でもおれは、」
「要らねェなんて、一言も言ってねェだろ」
それでも押し付けるよ、と言いかけた声は、ウソップの声に阻まれた。
「生憎おれは貧乏性でさ、くれるって言ったもんを押し返すことはしねェの」
「・・・」
「それに、まァ、…」
そこでウソップは一度言葉を切り、視線を逸らして頭をかいた。
「…別にさ、誕生日じゃなくたって、プレゼントはできんだろ」
だから、おれもお前におれをやる、と。
「だって、お前がおれに何か望んでくれるなんて初めてだ」
苦笑にも似た笑み。
思わず、サンジはその肩に手を伸ばしてた。
触れる寸前で、止める。
「…なに?」
「…触っても、いいか」
「何言っちゃってんの。いつもベッタベタじゃねェか」
軽口をたたく口調はいつも通り。
肩を組んで踊ったこともある、抱き合って喜んだこともあるその体が、しかし、奇妙なほどに遠く感じて。
「何、サンジ緊張してんのかよ」
その手をぐいと引いて、抱きついてきたのはウソップの方だった。
肩、腕、胸、足が触れ合って、その暖かさを伝える。
くっつきすぎて表情は見えないが、唯一見える耳は赤く、
「何だよ、テメェからくっついてきておきながら、照れてんのか」
「うるせー!それはお前だろ!」
がば、と起こした顔を真正面から見つめ、サンジは口を開く。
「キスしてもいいか」
「は…」
怒りの表情をそのまま驚きに変えて、ウソップが動きをぴたりと止める。
「…ば、馬ッ鹿じゃねェの!そんなの断られたら余計恥ずかしいだろ!」
その、言い返された台詞の中には否定の意味は一つもなかったから。
サンジは目を閉じて、目の前の長い鼻の先にちょんと口付けた。
「…恥ずかしい奴ッ!」
とたんに真っ赤になって―それが怒りか羞恥かはサンジには分からなかったが―、ウソップは顔を隠すようにサンジの胸に埋めた。
「…でもさ」
ぎゅ、と抱きついたままの腕に、力がこもる。
「もうお前は、おれのもんだから」
サンジも、その背に手を回す。
「で」
表情も見えない、ウソップの声。
「…おれも、お前のもんだから」

押し付けあうような二度目のキスは、見張り台の壁に阻まれて誰にも知られない。
火を求める船医の声も、見張り台の壁に阻まれて彼らには届かない。
それも幸福だ、と、所有者の所有者たちは共に思った。
 
ウソップ誕生日一日あと。
まさかの続きもの。
とりあえず、ウソップ誕生日おめでとう!!

ぐるぐるぐるぐるのキワミ。
すれ違ってるのかなんなのかわからないけど、とりあえず両想いではある。
そんな二人が好き。
書きたいこと多すぎて削ったら分かり辛く…むむむ。
 
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