「…ゾロ、いるか」
サンジは、開いた扉から勝手に家の中に入った。
血の臭いが耐え切れないほど濃くなり、意識的に臭覚を殺す。
元は白かったのだろう壁紙はまだらに真っ赤に染まっていて、強い力で引っかいたり叩きつけたのだろか、所々汚らしく剥がれていたり壁ごとへこんでいる。
「ゾロ!」
「―エロコックか」
返答はどうやら、奥の部屋から。
先ほどウソップが連絡を取っていたから無事はわかっていたが、やはり声を聞くと安心できる。もちろん、それがムカつく相手であってもだ。
その憤慨するような呼び名も今は許してやろうと、サンジは奥の部屋をひょいと覗いた。
「…」
思ったとおりの惨劇が、そこに広がっていた。
玄関の辺りや廊下の辺りとは桁違いに汚れた部屋。
赤紅あかアカ、この色をどう表現すればいいのだろう?部屋中に撒き散らされたのは、極彩色の悲しみだ。
肉片、ゾロの刀によって分けられたどの部位だかも分からない少女の肉片が、まるで子供が積み木のタワーを壊してしまったときのように無造作に広がっていた。
まだ、動いているものもある。手のひらの上半分が入り口の近くに落ちていて、その指先がぐよぐよと、まるで握り締めるべき手のひらがないことを不思議がるように蠢いていた。
その中に、ゾロは膝をついている。
再殺部隊の制服は黒いからどんな汚れも目立たないが、サンジを見上げたその顔に飛び跳ねた赤は隠せない。
「―…手伝うか」
「『ライダーマンの右手』(そいつ)でか?そりゃア、もう少し前に欲しかったな」
サンジの手の得物をちらりと見て、ゾロは答えた。
確かに、大振りな『ライダーマンの右手』で今更、こんなに細かくされた肉片を砕く意味はない。
もう少しまだ相手が大きいときなら、解体の役に立ったろうに。
「手伝いなんざいらねェよ。もう、終わった」
ゾロは、ステーシーを倒すのも砕くのも得意なのだ。その三本の刀は少女たちを、百六十五どころではない、その倍以上の細かい破片に分けてしまう。
「じゃあ、後は片付けるだけか」
ゾロが立ち上がる。ドプンと、足元の赤い水溜りが跳ねた。
その水溜りが何の上に出来ているか気付いて、サンジは苦笑した。
「ウソップがさ、あんま血ィ飛ばすなって」
「飛ばすなって…この仕事で、それが可能と思うか?」
「何でも、カーペットの汚れは落ちにくいらしい」
「汚れを落とすも何も…もう、これじゃあ使えねェだろ」
毛足の長い絨毯だったらしい。元の色は薄いピンクか白だろうか、それも今は、赤の水溜りに沈んでしまっていた。
いくら再殺部隊特製の激落ち漂白剤を使ったところで、これでは無駄骨といったところだろう。
ウソップは怒るだろうか。それとも悲しむだろうか。
しかしサンジには、まあそうなると思った、なんていいながら苦笑する彼の姿が容易に浮かぶのだった。
多分、それはあと一時間もしないうちに現実になるのだろう。
「…そういや、新入りの二人は?」
「ヨサクとジョニーか?」
サンジは部屋を見渡し、ウソップから報告のあった人数に足りないことに気付いた。
ゾロは、呆れたように肩をすくめる。
「解体始めた辺りから口元押さえて、そこから出て行った」
そこ、とゾロが親指で指し示したのは割れた窓だった。その外は、中庭のようになっているようだ。
「逃げた…のか?」
「いや、多分外で吐いてるレベルだろう。あいつらだって、他に行き場所はねェ」
「…」
「ウソップが外にいんだろ?なら、アイツがどうにかするだろうさ」
早く出ようぜ、刀の手入れしねェと、とゾロはもう部屋の中の惨状に目を向けることなく背を向けた。
サンジは、まったくその人生に関わることの出来なかった『ロコ』という少女の成れの果てに一度目礼だけして、その背を追った。
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