まだ、しばらく清掃班―ウソップたちのことだ―の帰ってくる気配はない。
サンジは胸ポケットから煙草を取り出し、口にくわえた。
そしてふと気になったことを、ゾロにぶつけてみる。
「…ゾロは、ウソップが何でこんな仕事してんのか知ってんのか」
「あァ?」
ちょうど血塗れのシャツを脱ぎ捨てた所だったゾロは、新しいシャツを取ろうとした体勢で動きを止めた。
「汚れ拭いてからにしろよ、新しいの着るのは…」
サンジはタオルを投げてやり、それからタバコの煙を吐き出した。
は、と開いた口の形に、煙はドーナツ型になって空へのぼっていく。
空に消えていくそれをぼおっと見つめるサンジに、ゾロは無表情な瞳を向けた。
「…ウソップのことを、知ってどうする」
「いや、別に…」
言いよどむサンジに、フンとゾロは鼻を鳴らす。
「…あいつが、元々別の隊にいたことは?」
しかし、ぽつりと言葉を放った。
「…知らねェ」
「元は『クロネコ』って部隊にいた。…クロネコ部隊のことは?」
「ああ…それは、知ってる」
サンジは眉をしかめた。
クロネコというのは、各地に散る再殺部隊の中でも成績の良い部隊の一つだった。しかし、その評判はよくない。ステーシーの討伐を遊びのように捉えているものが多いのだ。
ステーシー化した少女たちをめちゃくちゃに壊すその行為をショーと称して見世物にするようなこともする。
ステーシーたちの悲しみを受け止めて、汚いものに触れるような―マスクをするような―行為すら禁じられるフランキー隊とは正反対の部隊だ。
「…そこにウソップはいたのか?」
「『クロネコ』の隊長が、ウソップの義理の父なんだ」
クロ、という男だ。手袋の先に刃物をつけた『猫の手』と呼ばれるものを使い、舞うように少女たちを肉片に変える。
その技をサンジは直接見たことがないが、運ばれてきたステーシーたちの遺体の中に綺麗にスライスされたようなものがあり、それが彼の手に因るものだということを誰かから聞いたことがあった。
それがウソップだったかもしれない。
「ウソップは幼い頃からクロの仕事を見続けてきた。…クロが、実娘を殺す所も」
「娘…」
「アイツの目の前でステーシー化したらしい。アイツが義手なのも、そいつのせいらしいな」
「義手?」
手袋の左手。
「見たことねェか?まァ…アイツも見せたがらねェしな。…ま、そりゃあ…」
淡々と、ゾロの話は続く。
「…彼女は、ウソップの初恋の相手だったらしいしな」
サンジの、知らない話を。
ウソップが義手だったことも知らなかった。
手袋の左手。
そう言えば何か作業をするとき、右手で行って左手はだらりとたらしている、ということは多かったかもしれない。
気付かなかった。
長い間隣にいたのに。
好きな人がいたことも。
「あー…」
ぐしゃぐしゃと、ゾロが自分の頭をかき回す。
その声で、サンジは現実に戻った。
「…ウソップには内緒にしてくれよ。勝手に喋ったっつったら怒られる」
ぼやいた横顔はまるでいたずらを咎められる子供のようだった。
「…笑うなよ」
「や、悪ィ」
この強面の冷酷そうな男も、あの少年に嫌われるのは嫌なのか。
そう考えると、少しおかしかった。
「おーい、サンジー、ゾロー!!」
声が聞こえた。
視線を向ければ、大きく右手を振る姿が家の入口あたりに立っていた。
その後ろには、それよりも少し大きな姿が二つ。
さっきまでよりも、少し晴れやかな顔をしているのが、ここからでもわかった。
「こっち、終わったぜー!」
「おう!」
同じくらい大きな声で答えてやりながら、手を振り返す。
「帰ろう!」
空に突き上げられた拳。
すぐに続いて、4つの拳も掲げられた。
ステーシーの美学
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。
まだこの設定とメンバーで書きたい話はあるけれど、
とりあえずここまで。
ナミさんとサンジに決着をつけてあげたいけど、
悲しい話にしかならなそうな悪寒。
べ、別に、チェーンソーを持つサンジと義手のウソを出したかっただけ、とか、そんなことはないんだから!
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