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「おはよーございまーす」
「あら、今日も早いわねぇ、リザちゃん」
「今日、俺誕生日なんだよ」
「あらまあ、そうなの?それはおめでとう」
「うん、ありがと。だからさ、一個くらい多めに買ってってくんない?」

ウィンク一つ。ジョークを理解してくれる常連のおばちゃんはクスクス笑って、いつもは家族分4つの所を、倍の8つのリンゴを買ってくれた。

俺はリザ。リザードンのリザ。リザードンだからリザ、なんてまあ分かり易い名前だが、俺が生まれたとき…つまりまだ炎も小さいヒトカゲの頃からそんな名前つけるんだから、俺の両親も相当変わってるよなあ、と思う。

俺の仕事は、果物売り。谷の上の野リンゴを取ってきて、こうやって町で売るのだ。

羽の生えた奴なら簡単に届くだろう野リンゴの森ではあるが、なかなかそんな手間をかけてまでリンゴを食べたい者もいないらしい。こうやって誰かが取ってきて安く売ってくれるなら食べたい、という奴は多いみたいだけど。この常連おばちゃんのように。

だからこそ、俺は前日の昼から夕方を使って野リンゴを取ってきて、大きな車輪が左右についた荷車に詰め、次の日の朝、村のメインストリートの角に立って、瑞々しいですよーうまいですよーと声を張り上げるのだ。

メインストリートと格好よさ気に横文字で言っては見ても、所詮は人口の少ない村である。そうたいした売り上げにはならないが、取ってきた分の半分強売れれば、その日一日を余裕で過ごすことくらいはできる。

売れ残っても、数日は売り物として使えるし、昼飯や夕飯の代わりにもなるし。便利だ。

「はい、じゃあお金」
「へいへい、お釣りでーす」
「いつもありがとうね」
「こちらこそ!また明日もよろしくね」

おばちゃんは手を振って去っていった。しかしすぐに次の客。

「いらっしゃい!いくつだい?」

今日は少々暑い。そろそろ夏が近いのだろう。

そのせいか客も結構来てくれていて、俺が昨日の夕方頑張って取ってきた荷車いっぱいの赤いかわい子ちゃんたちはどんどん少なくなってゆき。

「…ありがとうございましたー!」

太陽が頭上真上に上がる頃には、荷車の一番底に、1個2個、転がっているだけだった。

村人たちは昼飯の準備のせいか、いつの間にか散歩している人も減っていて、俺はこれ以上の立ちっぱなしは無意味だと知る。何と言っても売り物がもうないし。

朝はリンゴで一杯になっていて、今はすっかりカラになっている荷車に布をかけ、売り切れの札を下げる。近くの木箱に腰を下ろして、最初から避けておいた傷付きのリンゴ―これは売り物にならないと俺が判断したものだ―を一つ手にとって、かぶりついた。

「うん、今日もうまい」

赤い皮に大きく俺の歯型がつく。水気たっぷりで甘いそれを十分に味わって飲み込む。

幸せな気分だ。太陽もまぶしいし、少し暑いが生活し易い範囲内の気候だし、風は爽やかだし、何だかとても幸せな気分だった。

「…あれー?今日はもう売り切れー?」

と、そんな幸せを邪魔する声が降ってきた。

とっさに面倒臭い表情を作ってしまったが一瞬でそれを消し、お客様は神様用の0円スマイルを浮かべて客に向き直り、そしてその瞬間、その一連の行動を取ってしまったことを悔やんだ。

 

リザ編 2

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